先々週は急激に進んだ円高が、投資家のみならず、広く世間の注目を集めた。
この円高については、先々週の前半と後半に分けて考えるのがいいと思う。前半は、アメリカの金融緩和政策が長く続くだろうという市場の見方に伴って進んだ「ドル安」だった。円以外の通貨に対しても米ドルは値を下げた。次に、先々週の後半は、ドバイ・ワールドセンターの返済猶予要請を巡って、ドバイに対する融資債権額の大きい欧州の銀行のダメージが懸念されて、ユーロその他の通貨も日本円に対して値を下げた。こうして、「円独歩高」といわれた動きができあがった。
ドバイ・ショックの影響を考えると、ドバイに対する貸出債権という意味で、邦銀はもともと外国の大手銀行に比して営業的に出遅れていた。これが効を奏して日本の銀行システム、ひいては日本円に対して、「相対的にはマシではないか」ということで、消去法的に円が買われた。
この感触は、サブプライム問題の前半と似ている。いわゆるリーマン・ショックが起こったときも、日本の金融システムに対する悪影響は小さいと言われていたし、このこと自体は正しかった。しかし、サブプライム問題では、リーマン・ショック以後の世界的な景気後退が耐久消費財の輸出を得意とする日本に対して金融からではなく、実物の需要減として大きな悪影響を与えた。今回のドバイ・ショックには、まだこれと同じ心配をしなければならないほどの波及効果はなさそうだが、今後、確率は小さいと思うが、新興国一般に信用不安が拡がると、似た状況になりかねないリスクはある。
為替市場では、先々週進んだ円高が、先週円安方向に大きく戻る展開になった。特に、週末、アメリカの雇用統計が予想されたほど悪くなかったことで、大きく円安に戻った。
当面、たぶん向こう1年を見渡したときに、各種の相場の動きにもっとも影響する要因はアメリカの金融政策であり、これに最も大きく影響するアメリカの雇用情勢だ。
雇用情勢が悪い間は、FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和を止めることはできないだろう。アメリカの金融緩和は、現在、アメリカ国内だけではなく、新興国の株式市場や不動産市場(香港、シンガポールの不動産価格は上昇している)、金をはじめとする商品市況などに「ミニ・バブル」的な影響を及ぼしている。金融緩和が終わる時は、景気の改善がはっきりするときだから、その時直ちに株価が下落するという形にはならない公算が大きいが、政策金利が上がり始めてしばらくすると、株価が下落する局面が近づくはずだ。
もちろん、景気が大幅に悪化し続けると日本の経済にも株価にも悪影響が出るのだが、そうでない場合は、アメリカの失業率が高い状態の方が、FRBの金融緩和政策が長く続くはずだから株を買いやすいという、やや皮肉な状況がつづくことになる。
ただし、FRBの金融緩和が長く続くだろうという予想は、米ドルの為替レートに対して弱気材料なので、今後も円高に対する警戒は必要だ。
もっとも、景気の回復期は心配材料が常にあるものだ。海外景気や円高や、不安要因がありながらも、景気や企業の業績は、徐々に回復していく展開を辿る公算が大きいと筆者は考えている。
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客員研究員 山崎元
(楽天マネーニュース[株・投資]第64号 2009年12月11日発行より) ==========================================================