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体にいくつも管がついた状態の彼の枕元にすわると、彼は
「自分は病院でみてもらっているのだから、心配いらないよ。
それより、おくさんが倒れちゃったら困るんだから、うちに帰って休みなよ。」
と改めて私に声をかけてきました。
私は笑いながら、
「顔をみないでいるほうが落ち着かないよ。こうしてとなりにいるほうが安心するんだから追い払わないでよ。」
といいました。
すると彼はほほえんで、それ以上はなにもいいませんでした。
私は彼のとなりで、いろいろたわいのないことを話していました。
しかし相槌をうつのもつらそうです。
「無理に答えなくていいよ。聞いていてくれるだけで、私の気がすむんだから。」
と声をかけると、
「女の子は話すことがいっぱいあるんだね・・・。」
とよわよわしく笑いかえしてくれました。
「だって・・・。いっぱい声をかけておかないと、話してくれなくなるような気がして・・・。」
と思わず私はいってしまいました。
すると彼は
「そんなことあるわけないでしょう・・・。」とつぶやくように答えました。
突然、彼がはげしくしゃっくりをし始めました。
胃から逆流があるようで、横隔膜がすぐに刺激されてしまうようです。
あわてて、私は背中をさすりました。
でもとまりません。
とっさに私は人口呼吸をするようなつもりで、鼻をふさぎ、口をあてました。
するとしゃっくりはなんとかとまったようです。
「キスするととまるんだね。」と笑いながらいうと、彼も一緒に微笑みました。
その後も何度かしゃっくりがとまらなくなると、キスで口をふさぐ・・・をしてました。
夜になると痛みがつらくなるようです。
「痛み止めってまたしてもらったらだめなのかな・・・。」と彼は私にいってきました。
「痛みがつらい?痛み止めうってもらってあんまり時間たってないけど・・・。」というと
「さっき痛み止めをうってもらったあととても気持ちよかったから、またうってもらえるといいなー・・・とおもったんだ。」
と冗談めかして彼はいいました。
かなりつらかったんだと思います。
「じゃあ、看護師さんにいってみるね。」とだけ私は答えました。
そして、彼のひたいに手をあてて
「いたいの、いたいの、とんでけー。」とおまじないをしました。
すると彼はすこし笑いながら、目をつぶっていました。
彼の額はすこし熱かったです。
熱が下がらないのでしょう。
思わず涙がこぼれました。
「しんどいよね・・・。痛いよね・・・。夫婦なんだから、痛みも分けられるといいのにね・・・。そうしたらすこしでもラクになるんだったらいいのにね・・・。」
と泣きながら私がつぶやくと、
「夫婦で病院に入院じゃしょうがないでしょ。
それに、おくさんまでたおれたって、僕は看病できないし。
・・・ごめんね。新婚早々、こんな思いばっかりさせて。」
と彼はいいました。
私は涙をぼろぼろこぼしながら
「本当だよ。さっさと病気なんか治して、早く一緒に家でくらそうよ。
今回のことで疲れて、私が家でごろごろしているから
そのときはダンナが私の看病をしてくれなくちゃだめなんだよ。」
と答えました。
「もちろんだよ。ちゃんと看病するからね。」
と私をそっとなでながら答えてくれました。
もちろん、そんなことはまったくの夢であることは2人ともわかっていました。
でもそんなことを語りながら、短すぎる夫婦としての日々を共有していたのです。
3日目のことでした。
お医者様がわたしに声をかけてきました。
「痛みがおさえきれていないようなので、さらに強い薬を投与することになるのですが・・・。
ただ、意識がなくなってしまうので、お話したいことがあれば、今のうちにしておいたほうがいいかと。」
覚悟はしていたつもりです。
確かに痛みがおさえきれていないのもわかっていました。
でも意識がなくなってしまう・・・・それはとてもつらい宣告でした。
病室にもどり、私は彼に
「なにか、私にしてほしいことはない?漫画かってくる?車の雑誌とかは?」
と声をかけました。
すると彼はしばらく考えて、意を決したように
「じゃあ、ひとつ。
これから、なにがあっても僕は奥さんを信じているから、落ち込むなよ。」
といってきたのです。
私は思わず
「ダンナが病気治って帰ってきてくれれば、落ち込んだりしないよ。」
と叫ぶとボロボロと涙がとまらなくなりました。
彼は「うん、わかってるよ・・・。」と私をなでながら悲しげにほほえみました。
そして、それが、彼の私への最後の言葉となったのです。