Mystery Novels

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2010.03.21
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カテゴリ: 推理小説
 「鍵がかかっていますね……」
 首藤は、ノブを数回ガチャガチャと回した。
「黒木さんに訊いてみようか」
 武村が言った。
 その後の武村の報告によれば、鍵を数日前にどこかで紛失してしまって、今度の週末にでも新しいのを作る予定だった、セラーの予備室のようなもので、今は使っておらず、まだ電気も通していない、と黒木が答えたそうだ。首藤は仕方なく、鍵を作ってから出直すことにした。

「それでは只今より、幻の葡萄酒、CHペトリュス59年の試飲を始めたいと思います」
 黒木が壇上でそう言うと、騒がしかった会場が静まり返った。
「それではまずこちらのテーブルの方から……大丈夫です、このワインは……ほら、3本用意してありますので。ある程度の量はお飲み頂けます」
 近くの台車には、黒木が持っている他に、2本載っていた。


 黒木自身がグラスに注ぎ、一人の参加者の女性に差し出した。
「どうです? お味は」
 その女性は、眉を顰めて言った。
「……おかしいわ。普通こんなに渋いものじゃない筈よ」
「え!?」
 会場が騒然とした。
「ま、まさか……」
 黒木が新たなグラスにワインを注ぎ、自らが飲んだ。
「……オリが入っている……? 浮きあがっているのか……?」
「ちょ、ちょっと、どうしてくれるんですか? これを楽しみに来たのに……」
「お、落ち着いて下さい。……よかった、他のワインはオリが立っていないようです。少々分け前は減りますが、お許し下さい」

「まあ……しょうがないか……」
 俊介は落胆と失笑が半々の顔をしていた。
 その時首藤は、台車の傍にいた。オリが立ったワインを見ると、銘柄の書かれた所に、僅かに血が付着していた。
(これは……!)

「それでは本日はこれで、お開きとさせて頂きます。有難うございました」

 参加者達が満足して三々五々と帰って行く。首藤達も会場の外へ出た。
「! 警部」
 首藤は外に待機していた武村に気がついた。
「お、武村警部か。じゃあ一、先に車に戻ってるからな。早めに来いよ」
 俊介と琴音は駐車場へと向かった。
「どうしたんです? もう捜査は一旦は終わりでしょう」
「いや、この後、すぐにでも鍵屋に行こうと思っていたんだが……」
「それなら警部。考えがあるんですけど……」
 首藤は手で覆いをして、武村に耳打ちをした。
「! し、しかし……確率は低いぞ」
 武村は渋い顔をした。
「大丈夫です。あいつは必ず行きますよ……この罠にかかる筈です」
 首藤は静かに微笑んだ。





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Last updated  2010.03.21 21:10:50
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鳰原公尚@ Re:「鳰原」さん(01/07) このみよじは、群馬県渋川市(旧 子持村 …
松田統 @ Re:コメント失礼します☆ masashi25さん コメント有難うございま…
masashi25 @ コメント失礼します☆ ブログ覗かせてもらいましたm(__)m もし…

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