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おねえは呑気に朝寝を楽しんでいた。好きなキャラクターGさんがサンマを焼いている夢なんか見ていた。サンマはGさんのライバルの好物だったので、ライバルの好物をわざわざ料理してやるGさんってなんていい人なんだろう!と感動し心躍らせながら、惰眠を貪っていたのであった。おネエの夢物語と共に、現実の鼻は、なぜかかぐわしき香りで蒸せそうになっていた。夢と現実が連動する、たとえばトイレへ行った夢を見たら、実際にオネショしてしまっていた、ガーン!みたいな密着型の夢なのか、これは!つまりはサンマの皮の焦げたような臭いが、さっきからおねえの鼻をくすぐってしょうがなかったのだ。相変わらず、夢の中ではGさんは、フライパンでサンマのようなものを焼いている。ナイスな笑顔で、とってもご機嫌な雰囲気が、見ているこっちにまで伝わってくる。ああ、Gさん!!とろける笑顔のおねえ。とはいえ、この煙たいのは何だろう。おねえは目をこすって、Gさんととりあえずの別れを告げた、というか、目を覚ました。布団から顔を出したおねえは、いつもと違う事にちょっと気がついた。なんだか部屋の中、曇ってませんでしょうか?今更なんだが、おねえは頭も悪いが目も悪い。コンタクトレンズを入れてないと、何もかもが五里霧中で、手探りで。まあ、おねえの存在自体も迷い迷いで、文字どうりの五里霧中手探り人生街道ン10年なのだが。部屋が曇るそんな中、見えないながらも、目を細め。そうしてみてもすごく視力が良くなってシャキーンと見えるわけではないのだけれど、これは一般的な目が悪い人の、クセみたいなものだ。一般人を装うおねえもそうやって目を細めてみたわけだが、やはり何も見えるわけない。けど、なんか臭う。おねえの隣の部屋は、お台所なのだ。こりゃ、おばちゃんがなんか炊きものでもしているんだろうな、換気扇くらい回しておいて欲しいよなあ。おねえはよっこらせと立ち上がって、勢いよく襖を開けた。主婦のお城・お台所。そこは、富士山のてっぺんか!というくらい、もやがかかって、何も見えない状態だった。いや、富士山に登った事はないんです。聞きかじりの表現で申し訳ないのだが、まさに、山のてっぺんで今まさに遭難しそうな感じの、もやだったのだ。これはただ事じゃないですよ。おねえは5歩ほどヨロヨロと歩き、ガス台の前へ来た。小さな鍋がひとつ火にかけられていて、何か暖めているのかもしれないけれど、暖めすぎて「鍋から煙が出ています」。「昔の名前で出ています」そんな演歌の文句に似ているけれど、果てしなく遠いし文字数と゛出ています゛だけが合っているだけじゃん!というっコミを誰がしてくれるはずもなく。その間も、白い煙は鍋からもくもくと出ていたのだ。これか。夢でGさんのサンマを装っていたのは!…じゃなくて、うおお、凄い煙だよ。おねえは持ち前の運動神経を総動員し、疾風のような勢いで、コックを閉めた。そしておばちゃんを呼ぶ。おばちゃんは、呑気に戸を開けた。ああこれは忘れてるな、と思った瞬間、目の色を変えて、転げるように走りこんできた。今更もう遅いよ、走ったってさあ。そうして、おばちゃんの秘蔵のこんにゃくと厚揚げの炊いたのは、半分くらい炭と化して、鍋の底にこびり付いていたのが発見されたのだった。厚揚げとこんにゃくは、その鍋と一生を添い遂げるくらいの勢いで、ぴったりとくっついて離れないのだった。一体いつ、どこで知り合ってどの辺で両思いになったんだ、そのいきさつを是非知りたい、とおねえは思いながら、また、見えにくい目で、周りを見まわしてみる。そこは、まさに。氷川きよしの渾身の一曲「白雲の城」ならぬ、「白煙の城」と化していたのだった。主婦の聖地、白煙のお城もただ、煙たいだけだった。
Jan 16, 2005