Laub🍃

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2011.03.22
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カテゴリ: .1次メモ




 ヤンキー顔だとかそこらへんのブスとかそういうレベルじゃない、とにかく怖いのだ。
 ケチャップが付いていたら血の出るような何かを食べてきたんじゃないか、怪我をしていても返り血だと思われる、そんな彼女。

 殆ど毎日一緒に帰る、今も隣に居る、ホラー漫画とかだったら勝手についてくる系幽霊の外見をしている、そんな彼女。

「なあ、少しぐらいこっちを見てくれてもいいじゃないか?」

「う……、うん」


そして俺はヘタレビビり根性なしetcなのでそっちを見られない。

見たら泣いてしまうからだ。

 泣くと、今まで怖がられてきた彼女にまた一つ新たなトラウマを増やしてしまう。それだけは避けたい。

 彼女は外見はホラーだし、表情もホラーだ。
 だが話してみると案外、こういうのは失礼かもしれないが、まともだ。
 周囲から異常に扱われてきたからこそ、というのもあるのかもしれない。

 ……だから、彼女を怖いと思う感覚を、けすことはできないにしても……いっそ彼女の兄のように、生まれてからずっと一緒に居たから慣れている、とか、担任の先生のように、色々な経験があるから彼女に対しても鷹揚に接することができる、とか、そういう態度を、できればメンタルの強さも添えて、とれるようになりたいのだが……。

 なかなか、うまくいかない毎日だ。
 付き合い始めてから半年。ヤンキー女子と付き合い出した幼馴染はとっくにそのオラオラした態度に馴染み、むしろ可愛い薄い眉毛折れた歯かっこいいとさえ思っているようなのだが、俺達……いや、俺はまだ、その領域に達せていない。


……因みにそんな俺が何故相性の悪そうな彼女とお付き合いさせてもらっているのか。


…………まあ、その、非常に屑な俺のせいなわけだ。


 彼女に告白してこいという指令を悪友未満の人達に出され。

 断り切れず、下駄箱の手紙ではいたずらと思って取り合ってくれない彼女を呼び出して、その目の前に立って。

 冷や汗だらだらを無視して段々と視線を斜め下から彼女の顔正面に向け。

「あ、あの、あなたの、その、落ち着いている所がssだをjqぼ!つ、つ、つつつきあぐあいjをあいじょdj「落ち着け」

……未だに思い出すと穴に埋まりたくなる。


 そんな俺を受け入れてくれた彼女に、俺はなんだかんだで恋をした。
 ヘタレでビビりで根性なしでよく緊張すると言葉を噛む俺は、からかわれるくらいでしか、人とまともに関われたことがなかったから。

……まあ、それでも顔を正面から見ることができないわけだが。



 だから、今の所。恥ずかしい、俺は照れ屋、ということで顔を見ないでいることを誤魔化している。

 傷付けないで済むだろう、もしかしたら気付かれているかもしれないけれど……うん……うあー……どうしよう…………と思っているわけだ。


 ……唯一見た時といえば、斜め後ろに近い横顔と、写真をピントをずらしてみた時と、告白した時の遠くを見る目でぼんやりと覚えている彼女の顔だろうか。

 そのぼんやりでさえ、怖いのだから、俺のヘタレ加減にまた泣きたくなる。

 恐らく彼女は今まで俺と同じように、いやもしかしたらそれ以上に、人からされたくない反応をされていたのかもしれなくて、俺は、好きな彼女にそんな反応はとりたく、なくて。でもそんなことをしてしまうことが情けなくて。

 少しだけ、少しだけ、彼女がもう少し違う顔だったらと思わないことはないのだけれど、そうしたら今の彼女の性格はもっと違っていたものかもしれなくて。そういうことを想ってしまう自分も嫌で。


 顔は見られなくても、隣に居て、体温を感じるだけで癒されるこの時間も、ないのかもしれなくて。
 それを手放せない自分がなんともバカみたいで。


俺は今日も、彼女の顔を見られないまま彼女の手に指を伸ばす。


ホラーでよくある血の糸が、いつか赤い糸に見える日を願いながら。





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最終更新日  2015.06.29 01:58:25
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