Laub🍃

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2011.04.12
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
涼は、気が付いたら施設時代にタイムスリップしていた。
意識を取り戻す直前、ねずみのような姿をした、ぼんやりした白いものが話しかけてきたのを涼は覚えている。

白いなにかは宣った。

望めばいくらでもここに居られると。
殺されるのならば、何回でもやり直させてやると。
代わりにやり直すその都度、世界の人々の魂を寄越せと。

言葉の端々、特に「つ」という発音を、方言なのか、「ちゅ」と置き換えるそいつの提案にはじめ涼は乗った。
そうすれば今度こそ安居は、昔の心のまま未来を迎えることが出来るのかもしれないと思ったし、それを見た混合チームの面々は安居への評価をもっと高く、涼がライバルと認めた相手に相応しいものにすると思ったからだ。

しかし、今では涼は、元の世界に帰りたくて仕方がない。


この居場所に縛られることを、涼の心が拒否している。

幻覚なら早く目覚めろと願った。
催眠なら発生させた存在を皆殺しにしてやりたいと思った。


どうしようもなく美しく、どうしようもなく憎たらしい郷土で、涼は今日も目覚めと共に絶望する。







 裁きと救いは表裏一体であり、神の特権だ。

 涼は縛られない。

 自身と対等であれる存在が現れるまで。

 それはむろん未来に行くことの出来ない先生達でも貴士でも要ではない。
 一緒に未来に行くであろう仲間たちでも、まだ足りない。
 未来で出会う他のチームの人々とは全ての前提が異なる。


 なのに目はいつも別のところを見ている。
 ひたむきにまっすぐに守るべきものを、見張るべきものを、敵対すべきものを見ている。
 涼がそいつを誠実に病的に守り、甘やかし、絶対的な味方をすることは、ただの自己満足なのだ。

 だからこそ、他の存在が要ることを涼は知っている。 
 あの澄み切った、何もかもを照らし出すような光に涼が見張られ、影を造って対となる為の何かが要る。




 ひどく重苦しい、けれどどうしようもなく重大な十字架を誰かが背負っている。

 涼はその馬鹿の細かい後始末をしてやり、その頭に油をかけてやり、顔を拭ってやる。
 けれど涼は、その馬鹿自身にはどう足掻いてもなれない。
 どころか、丘の上に行くことさえ止められない。


 未来に行った時、やっとこれで涼は自由になれると思った。
 だが、裁かれも救われもしない世界で涼も安居も生きていかれず、結局十字架が新たな存在に変わっただけだった。
 追放され、助けに行った先で糾弾される、このざま。
 茨の王冠と杭と罵倒を本当に受けるべき存在はみな天国の門とやらの先に姿を消した。

 涼に残されたのは、目の前にある傷付ききった背中だけだった。
 全てを嘲笑うことしか涼には出来なかった。

 植え付けられた、夏Aという しゅ の本能こそが、夏Aを夏A足らしめ、そしてすべての不幸の根源となっている。なくせるはずもない。
 種。
 まさに種。
 要の皮肉は実にうまい。

 種のプログラミングこそが、その中の当たり前からずれた個々を殺す。

 だが、当たり前から外れたモノこそが。


 夏Bのように。

 巨船で洞窟に挑んだ安居、涼、夏Bのように。


 『当たり前』の生きられなかった環境で生き延びるのだ。


 なればこそ、未来で涼は安居と旅に出たかった。

 外国。
 外の、更に外の世界だ。
 そこは、歴史で学んだ村社会のようになっている混合村とは違って、『当たり前』の外がある。そこでならば安居の目は更に輝くだろう、誰かを助けられるだろう。

 だからその後ろで涼は安居を補助しなければいけない。


 安居の中に、まだきっと安居を責める声がある。
 安居は未だに自分を殺し続けている。

 昨日安居は死んだ。
 今日安居は死ぬ。
 明日もきっと安居は死ぬ。

 だが一人佇み、身を灼く光に挑む背中こそが美しい。

 隣に立つのは、その父であれ、裁判官であれ、処刑人であれ、彼を殺すものだけだ。

 それでもその目に宿る魂こそが美しい。


 安居の鏡のような目。

 いつだって心を映し、魂を剥き出しにしてきた瞳の中に……相対した時のみ見られるそこに、涼は帰らなければならない。


 穢れを知らないいまの安居ではなく、穢れを知ってなお一層深い色を持つ未来の安居のもとに、還らなければならない。



<続>





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最終更新日  2018.02.28 03:35:31
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