Laub🍃

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2011.04.30
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カテゴリ: .1次題
A子は、タイムスリップして少しファンタジックな江戸時代に来てしまった。

そこで出会ったのは奇妙な呪いや強迫観念を身に持つ人々。

彼女は呪いや強迫観念に対し現代の知識で対処していく。

今日のお客は。





「……君には、僕は救えないよ」

そう語る青年の背中には、美しい梅の花。


「これは呪いなんだ」

そう語る青年は、もう一つ、人の上腕部ほどの屏風のようなものを取り出した。


「僕達、当代の者が死んだりこの絵に吸い込まれると、この絵の枝に花が咲くんだ」
「……」
「数十年で梅の花は散っていく。完全に散り切ったら、当代の者にとって最も近い血縁者の背中に花が現れる。切り裂いても駄目、他の絵を描いてもまがい物だと怒りを買うだけ。僕達がこの中に入るしかない」






A切り裂く
Bお湯に漬ける
C梅の絵を描いてみる
D懇願する










A切り裂く




「……分かった。預かってみる」


そう言ってA子は預かった。


その実、じゃきじゃきと切り裂いて、何でもありませんでしたよと笑ってみせたかった。




鋏を取り出したA子の背後に、美しい女が現れた。女の上半身は裸で、黒い枝の紋様が刻み込まれている。

その枝がA子に伸びて来る。

「お…脅しなんかに屈しないんだから…っ」
「違う。これは忠告だ。お前、このままでは大変に痛い目に遭うぞ」

「嘘ではない」

それでもそのとげとげした枝の隙をついてA子はじゃきりと巻物を切った。



「……愚かな」
「あ」
「私は確かに巻物の一部だ。そして、無力だ。」

「だが、それを捕らえる者は違う」
「……」
「神様を傷付けると、同じ目に遭って殺されると、聞いたことはないか?……ああ、もう、聞こえていないか」



「しょうがない……」

黒い枝を繰って、女は絵を縫い合わせる。
そうしてA子をも縫い合わせてやる。


「……あれ?なんか、忘れてるような……」

かくしてA子は生き返る。

「……うーん、切るのはやめとこ」

「他の手段なら大丈夫かな?」
『……』

「…?なんか今、黒い枝がずっこけたみたいに傾いた…」



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B お湯に漬ける


お湯に漬けると、絵の中から女がふわりと現れ出た。

「余計な事はするな、今すぐ湯から絵を出せ。このままでは痛い目を見るぞ」
「痛い目…?そんなもの、怖くないわ」

女の上半身に描かれた枝が蠢いて、動きを止める。

「……ああ、もう、手遅れだな」
「……!」


絵具が湯に溶ける。

女の姿がどろりと溶ける。

「なーんだ、これでよかったんだ…切り裂くな、絵を描くなとは言われたけど、お湯に漬けるなとは言われてないもん……あれ?」

「……やはりな」

「ちょっと待って……なんであたし、溶け」


ぱしゃん、とA子は赤い液体になってしまった。
その様子が、女の溶け行く上半身に散ってまるで赤い花のようになる。


「……だが感謝するぞ人の子よ」


「私達はこれで、神からは逃れられる」



「私達は鎖だから」








「梅の花が消えた!君、何をしてくれたんだ!?」
数時間後、男が喜び勇んで訪れた診療所には、誰も居なかった。

いくら待っても、誰も帰ってこなかった。



→SAVE POINT









C梅の絵を描いてみる



「これでも美術の成績はAだったんだから」

そしてこの診療所で働くうちに、怪我の治療や少し縫うくらいなら得意になっていた。

お師匠様も最近では、扇子を口に当ててこちらを見守ってくれることが多い。



ぺたぺたと赤い絵の具、桃色の絵具で着色していく。

だが。

「?……おかしいな、赤だよね、これ」

その絵につけた途端、筆先から伝わる絵具が真っ黒に染まってしまう。
他の紙では立派に赤の役目を果たしているのに。


紙の相性だろうかと首を捻り、試し続けるA子に、何か声が聞こえる。


「……無駄だ。
 それはむしろ、我らの力を強めるだけだ」
「……あなた、誰!?」
「我らは枝。その絵に囚われる存在」

まるで風を受けたかのように、絵の中の枝が揺れる。

「……引き返せ、人の子よ。今ならまだ、間に合う。……まがい物は全て、鎖となるだけなのだから」

絵の中の黒い絵の具は細く垂れ落ちて、まるで、新たな枝のようになっていた。














D懇願する





「神様っ!お願いします、××君を、××君の血縁の人達を、つれてかないでくださいっ
 何でもしますからあ」
「……今、何でも、と言ったな?」










数年後、その都には、鬼が現れ人を食うと言う噂が流れていた。

その話を、今はもう白く綺麗になった背中にじっとり汗をかいて青年は想う。



自分達は封印していたのだ。

無数の血を求める魔物を、身一つで贖って養っていたのだ。



それを、解放するきっかけを、作ってしまった。


悔やんでも悔やみきれない。



しかしもはや絵は彼の手の内にない。


悲しそうな顔で、あの日あの晩、腐れ縁の黒枝の女が別れを告げに来た。


「……もう、私達、お役御免みたい」
「それはどういう…」

そして、代々継いできた青年の懐刀を取って、女は消えた。


その意味を青年は数日後、知ることになる。




赤い花に白い雪。灰色の枝。寒中の梅。
その化け物は無数の血と骨で出来ていた。


そして新たな犠牲者を捜し、夜ごと更に咲き誇っていく。





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最終更新日  2018.02.28 12:56:23
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