Laub🍃

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2011.07.16
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カテゴリ: .1次メモ
 後藤さんは生徒会長だ。
 僕は美化委員のつかいっぱしりとして、よく生徒会室を訪れさせられていた。
 生徒会のキャラは濃すぎるからとか、親衛隊に睨まれるとか、そういうことで敬遠されていたけれど、普通に遠くもなく、近くもなく接している限りでは彼らは普通に良い人だった。

 普通以上を望むと、決まって歯止めが効かなくなる。それで人生を破滅する人ーギャンブル狂いの兄とか、整形を繰り返す姉とか、不倫好きな母とか、社畜になって体を壊した父とか、そういう人たちを見てきた僕には、一歩踏み出すことは恐怖でしかなかった。

 踏み込んでくる人たちは全てやんわりと押しのけ、ほどほどの距離で接するか、興味を失うまでじっと待った。

 けれど、最近生徒会室のドアを開けることが怖い。
 だって、この先には。

「……美化委員です。先日のボランティア活動の成果に関するプリントを届けに来ました」
「…………入れ」


 彼しか居ないから。

 朦朧とした目、手をふらふらと彷徨わせる後藤さん。その腕にはくたびれた腕章に、腕枕の跡。6つある豪華な机は最早役職に分類された意味を為しておらず、最近後藤さんは入り口に一番近い事務机に常駐している。そしてその机の上には飲み干された珈琲とリポ●タンDと眠●打破の山。普通以上の、限界をとうに超えた姿。

「……眼鏡…」
「これですか……眼鏡、かけはじめたんですね」

 彼に似合わない野暮ったい眼鏡。それが気になって、つい一線の上に立ってしまった。

「わりいな…最近老けちまった気がするわ俺……」
「何か、手伝えませんか」

 今なら、引き返せる。今なら、まだ。ああ断ってくれ、お願いだ後藤さん。

「別にいい……お前は、お前の仕事をしろ。俺も、俺の仕事をする。」
「だってそれは…」

 他の生徒会役員の。そう言おうとすると、後藤さんが妨げる。


「…………」

 結局、お疲れ様の一言と、栄養剤だけ置いて今日も部屋を出る。
 情けない。ずっと踏み出さなかった結果が、俺を縛り付けることになっている。

 今日も俺は平凡のままだ。



*****




保守過激派・生徒会長後藤
中立で手いっぱい・平凡中村





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最終更新日  2016.08.30 00:22:09
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