Laub🍃

Laub🍃

2011.08.20
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
真っ青な空を大きな鳥が羽ばたいていく。
 その鳥の名前は知らない。
 世界は随分と変わってしまったから。

 僕たちも普通に暮らしていた日々と今では変わった。
 あのいくつかの夜は地球の変化に適応するために用意された、濃縮された時間だった。
 濃い血の臭いが今でも過る。

 一番変わってしまったと言われた彼は追い出されたけれど、僕達だって取り返しがつかない歪みができた。いつか僕も群れに馴染めない時が来るのかもしれない。僕はきっと自分勝手だから。

「お前の都合」
 思い出したくもないが、あいつに言われたことを思い出す。楽にしてやるつもりだった。もうほかの犠牲者を出さないようにしたかった。自分が育てたから、自分で終わらせてあげたかった。

 狂ったまま生きていくーそして本能も忘れ死んでいく様子が見ていられなかった。
 あの朝焼けの中のもふもふとした触感と体温が、こちらを見て嬉しそうにする声が、頭を過るほどに辛くなった。

 彼を育てた始末をつけようとしたあの人も、もしかしたら狂ったように見えた彼を見て、見ていられないと思ったのかもしれない。何かに怯えて悪夢を見て仲間以外には後先考えず噛み付いて。昔の彼を知っている者なら、変わったと思う。壊れたとも思う。
 だけど僕らは、僕らが壊れたことを知っている。だから一緒に居た。-互いに信頼していた。皆で皆を大事にしようと思った。

 動物たちも、うずくまっている時だけは、誰とも会わずに彷徨っているときだけはもしかしたら痛みがなかったのかもしれない。殺すことはなかったのかもしれない。

 だけどそんな一生なんて送れない。ずっと同じ環境なんてありえないんだ。
 ずっと守り続けられないのに僕は大事にした。野生で生きられないのに。
 あの人のように一定の距離を保つことはできなかったし、自分の手で全てを終わらせようと思った。卒業を、させたーいや、僕の方が卒業をしたのかもしれない。
 会いたい人に会える幻覚を心の奥で望んでいた世界を、みんな見たという。そうしたら僕はどんな夢を見るんだろうか。また、愛する夢を見られるんだろうか。

 どれだけ大事にしたかーその言葉を何度も反芻する。そう思うしかない。分かっている。

 だけど大事にしていれば、それだけ裏切られたという気持ちも強いのかもしれないとも思う。

 同じように「育てる」ことを役目とした彼女は、昔は毒を「知っていた」からこそ、取り除こうとしていたのに今はそれを管理するために、どんどん踏み込んでいく。その勢い、知識欲は執念はすごいと思う。狂ったとしても歪んだとしても何かしらの未来、行き先はあるというその姿勢。そして、大きく変わっただろう海を毎日相手に挑む彼女もまたそれに近い美しさを持っていると思う。
 そしてそのすべては生きる為に集約される。誰かを生かす為に集約される。

 今回、彼が殺されることがなくてほっとしたのは、あの時代わると言ってくれた彼を思いだしたからかもしれない。大事な相手が壊れたように見えても、苦しんでいても、殺す必要がないと、殺さないで楽にする必要があると分かったからかもしれない。あの人を通して昔の自分に語りかけているような気持ちになったからかもしれない。

 生きる為に生きていく。生かす為に生きていく。そんな世界で僕とあの人、そして彼女は鎌を持っている。仲間を殺す為の鎌を。

 -でなければ、出来る限り安らかに送っていけることを望む。





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最終更新日  2017.04.11 00:58:13
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