Laub🍃

Laub🍃

2011.08.27
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カテゴリ: .1次小
この文字を見る度に思い出す。
僕がある子の笑顔を殺した日を。

この笑顔を見るたびに思い出す。
あのクーラーの効いた部屋を。

草木萌える5月だったか。
このフォントが使われているプリントが、クーラーの風でそよいでいたことを覚えている。
塾で、僕はその子に鉛筆を貸した。
だけどその子は鉛筆をうっかり折って、そのままでいれば治せたものを、両方とも削ってしまった。
後になれば許せることだった。

だけどその日はどうしても許せなくて、媚びるように笑うその子に言い放った。
「君の笑顔って、気持ち悪いね」
瞬間、その子は固まった。
それ以降その子が笑わなくなったと聞いた。
元々どこか抜けていたその子は、疎まれると同時に好かれてもいた。
あまりに無邪気で相手に媚びる笑みが好きな人も居たんだろう。
だけどその子は笑わなくなってから、その相手すら失った。
そして怒る事も泣く事もなくなったから、いじめっ子すらその子と関わろうとしなかった。
僕は鉛筆を眺める。
あの日、片方だけ取ってもう片方はその子の目の前で投げ捨てた鉛筆。
当時のかっこいいキャラクターがプリントされたそれは、張り付けた笑顔を見せている。

そう思っても、この中にその子の笑みが封じられているような気がして、年々気持ち悪くなる。
なのに、捨てられない。
ふざけるな。
僕は気付けば、泣きながら笑っていた。





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最終更新日  2017.05.01 00:02:56
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