Laub🍃

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2011.08.27
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カテゴリ: 💫復活裏
 気が付いたら、俺達は揃って十年前に飛ばされていた。
 もうじき世界は橙に溶ける頃、公園のベンチの上、素振りしていた俺の所に、買い物帰りのツナが通りすがったっていう所か。チビ達は互いに追いかけっこをしてどこかに行ってしまったらしく、散らばっていた買い物を拾いながらくだらない話をする。さっきまで殺し合いをしていたというのに、随分と呑気だ。
 空色が雲で閉ざされていない時、その白い境目を眺めながら、ツナはため息を吐く。

「こんなことになるなんてなあ……どうしよう、十年前の俺達多分死んでるよね……?」
「……まっ、なんとかなるだろ!!小僧や獄寺達も居たんだから」
「だといいけどさあ…」

 俺達の記憶に、いきなり戦場に放り込まれた記憶なんてないから、多分ここはパラレルワールドだ。だから、この世界の俺達が死んだとしても今の俺達は消えることはない。

「このままずっと、ここに居られたらいいのにな」
「…そしたら、みんなびっくりしちゃうだろ。高校にだって行けないし」

「どういう意味だよ!……それに、この世界は、違う俺達のものだ」
「…………」

 ツナの頬が橙に染まっている。
 置き去りにされた金属バットも橙に染まっている。

 帰らなくちゃいけない。 
 子供の頃、店の手伝いで早く帰らなきゃいけなかった時の記憶。

 橙は暖かい色だ。帰る場所があるならば。
 そして、寂しい色だ。帰りたくないならば。

「あのままずっと、子供で居られたらよかったのにな」
「俺より、山本の方がきっとこの頃の山本に近いだろ」
「はは、さんきゅ!もう青春って年でもないけど、言われると嬉しいもんだな」


 橙を跳ね返す薬指の銀色は、いい年した馬鹿の青い恋を笑っていた。

 この頃に戻れたなら、まだ、間に合ったのだろうか。

「ツナ、せっかくだしそこらへん歩き回ってみっか?」
「えー、無駄に混乱するかもしれないからめんどいしいい」


 雑談の合間、ポケットから取り出した懐紙にこっそりと走り書きして金属バットの柄に結び付ける。

「そろそろ時間か」
「あー、ばくばくするー……」
「大丈夫だって」

 視界がにじむ、意識がくらむ。視界が真っ白になる。
 青春は、懐古するものへと。
 日常は、非日常へと。

 それでも目の前のツナの瞳の橙だけは焼き付いている。

 このずっと変わらないものが俺を変えた。

「……大人の山本!?」

 多分一瞬前にあっちに行ったのだろうツナの代わりに、高校生のツナが現れる。
 あーあ、もったいないな。この頃の俺には勿体ない。
 案の定くたびれているツナを引き寄せる。

「や、」

 次の瞬間顔を真っ赤に染めるツナにひらりと手を振って、ツナと、温かな橙と、未練にさよならをした。


*****




山本がツナに抱く「夢」とツナが山本に抱く「夢」の自己プロデュース感

8027愛





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最終更新日  2016.09.02 19:23:20
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