Laub🍃

Laub🍃

2012.05.02
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
安居と僕は幼馴染だ。

赤ちゃんの頃からずっと一緒で、一番大切で大好きな親友。

だけど安居はいつも、僕を弟のように扱う。
ずっと甘えてきたから当たり前だけど。

お母さんやお父さんに外の世界の人は甘えるらしい。
最初からいなかったからどんなものか分からないけど、
どうやらその世界では僕のような存在は怒られないらしい。

僕はここにいるべきじゃなかった。
そう思う度に安居が僕を引っ張っていく。僕の隣に居てと言ってくれる。


外の名前も顔も知らない居るかどうかも分からない親よりも、目の前の茂を連れて行くなと言う安居の背中の方が余程頼りになった。

そして、僕は未来よりも、引っ張っていく安居の手を信じた。


だけど、安居は心の底ではきっと僕を頼りにしてくれてない。


僕が火のクラスで涙を流してる時、
安居は源五郎の肩で泣いてるとか。


僕は知らなかった。
安居の特別は僕だとばかり思っていたし、僕の特別は安居だったから安居が泣き顔を見せるなら相手は僕だと思っていた。

だけど僕は安居の弱い所を訊けない。
だって安居が一番輝ける形で居ることが、そんな安居を応援してることが、僕の当たり前だったから。大切だったから、訊けなかった。

安居のほうから打ち明けてくれたなら、あるいは様子がおかしいことを訊いても嫌がられないなら別だけどー……あの日、安居はごまかした。
僕をいつものように弟や子供のように扱って、本当のことを言わない道を選んだ。


ーあの日の朝虹に照らし出された、二人の姿も。

「こら、人の話聞いてんのか?」
「あ、聞いてるよ」
「大丈夫か?最近あんまり寝てないみたいだって聞いたけど」
「ううん」

だって僕は弱いから。

だから知りようがなかった。僕のこんな気持ちなんて。
安居に対する劣等感と、無力感と、嫉妬。
そんなもの安居は気付かなくて、まったく違う世界で安居が生き始めていたとか。

どうしていきなり人の的を撃てるようになったのか、とか。

僕は知らなかった。
僕は安居の全てを知っているつもりだった。

僕を起こさなくなった安居が、その代わりにどこに行くようになったとか。

僕が部屋を離れると言った夜、安居が何を考えていたかとか。

「安居、これわかんない…教えて」
「ああ…うん」
その時安居の頭の中が何でいっぱいだったかなんて。

分からなかった。分かれなかった。

様子が変だった安居を呼びに行った僕がいけなかったのか。

「安居行っちゃった」
「臭うだなんて、気を悪くするよね」
「安居おなか空いてるかな」
「先生ろくにごはんくれなかっただろうし」

なんて変な気を回さなきゃよかったのに、僕はいつも要領が悪い。

「安居ー…」

「あ」

そのときのことはよく覚えている。
うつろな目で源五郎の肩で夢中で泣きじゃくる安居。
当たり前のようになんでもないような顔をして微笑んでる源五郎。

今までに抱いたことのない気持ちに満たされた自分。

世界は真っ赤で、気持ちも真っ赤に染め上げられた。

それでも僕は声をかけられなかった。

ああ、安居は別の世界に行ってしまったんだと。
赤い部屋に、赤い世界に心が行ってしまったんだと心のどこかで思った。

そんな自分は、未来に行く資格がない。

だけど惰性のように頑張り続けていた。
いつか安居に認められるかもしれない。離れれば。一人で頑張れれば。
そうしたらあの涙の海に、僕は。
ひとしきり嘆いて、我に返って思った。


女に生まれれば。

いっそ、本当の兄弟だったら。

…今と違う関係だったら、いっそ思い切りがついたのに。
それを理由にして、踏み込めたのに。

僕の性格とか、安居の性格とか、その相性諸々を超えて素の想いと向き合えたんじゃないか。
なんて。

最近出会ったばかりの源五郎に心を許してる安居の気持ちが分からない僕は思った。

本当に、どうしようもない。

僕は気付かないふりをして安居に話しかけた。
だってどうしようもないから。

その頃には安居の涙は止まっていた。

あの日から僕は、安居に話しかけることが減った。
安居はそれを気にしないで、いつもうわの空で。
必然と僕は自分で考えることが増えた。起きる時も寝る時も、安居と別々になることが増えたのもそれに拍車をかけた。

どうして。

毎日聞けない言葉が積もっていった。

誰が泣かせた?

要先輩?卯浪?

誰の為に泣いてる?

小瑠璃?源五郎?

どうすれば僕は、安居が泣ける場所を作れた?

その日もいつも通りだった安居に、安心できるようなことを言えなかったのがいけなかったのか。

そんなことをぐるぐる考えているある日、船の実習があった。

ぐらぐらと夢か現実かもわからない苦しみの中、えずきながら僕は、いつも通り僕の傍に居ようとしてくれた安居をー突き放すようなことを言ってしまった。

「落ちたら…死ぬんだ!」

その切迫の理由にはずっと気付けなかったし、気付く余裕もなかった。
理解しあってると思ってたから。

「そうだよ…人は…滅びるんだよね…」

だけど。

「未来でも」

えずきながら、吐露してしまった。

「撃たなきゃいけないんなら」

いつもの安居じゃない姿を、その理由を。
余裕があったなら、訊けていたかもしれないけど。

「僕行けないと思う」

あの時にきっと僕は安居を傷付けた。
決定的に、別の生き物にしてしまった。


安居を見るたびあの涙を思い出しては後悔していた。


ーだから、施設が水に飲まれて、その時僕と行くことを安居が選んでいた時。
色々なものじゃなくて、僕を選んでくれたとき。

その声が少し泣いていた時、うれしかったんだ。


僕たちは幼馴染で、兄弟で、親友だからー

これから、もう一度やり直せる。
その涙で洗い流して、今度こそ。

ーそう、思ってしまった。





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最終更新日  2017.05.12 15:57:52
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