Laub🍃

Laub🍃

2012.06.02
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カテゴリ: 🌾7種2次表
『結論から言ってしまえば失敗だった。』

『しかも挽回の機会は数少ない。』

『それならば、過去の必死だった己を切り捨てるべきか、現在の冷静な己を拒むべきか。』

前者に決まっているだろう。


『育った世界も愛しいものも全てを失ってしまった。』

『しかもすぐに動かなければ生きることさえままならない。』

『そんな世界ならば、過去の世界の影を食い潰すべきか、己の命を投げ出すべきか。』

前者に決まっているだろう。


全ては全体の生存率を上げる為。




その一部が、俺達の育てた子供達だった。




*******

餌兎・陸

*******



生徒を殺すのは当番制だ。


貴士のようにその隠れた習慣と密やかな輪に馴染むのが早かった教師も居れば、慣れることが出来ず地位を下げる教師も居る。


確か外国語の教師はその一人だったなとごちりながら動物舎の錠を開ける。もう少ししたら野犬が近くを通りがかる手筈だ、源五郎が飼い慣らしているお蔭で警戒心は薄いこいつらならきっと大丈夫、きちんと俺達の計画通りに狂犬病に罹患して俺達の計画通りに生徒への試験道具として作用してくれるだろう。

既に毒虫や毒蛇、鰐やピラニアといった危険物は放ってある。
隠された武器や目印や食料や罠とそれらがどう化学変化を起こすか、それらに生徒はどう対処するか、楽しみで仕方がない。


「果たしてどうなるんでしょうね、卯浪先生」
「……育ててきた甲斐があったと思わせてほしいものだがな」


不安そうな顔の教師は、動物舎の専門職員だ。
スカウトされてやってきた当時とは違い、その顔は随分と老け込んでいる。
酒の席でこんな仕事をする為に大学に通ったんじゃないのになどとぼやいているのも時折耳にした。

……『こんな仕事』。

古い考えだ。


実行している俺達にとっても、高見の見物をしている要達にとっても、このプロジェクトは希望だというのに。
とはいえ、面と向かって盾突かれたわけではないし、俺も俺で要達ほど使命に燃えているわけでもなかったから聞き流しておいたが。

人権。
倫理。

そんなもの、生徒の外への無駄な関心を高め気を散らせるだけだ。
生徒は『こんな仕事』『こんな使命』と思わないように育てなければならないのだから、俺達も『こんな仕事』と思ってはいけないのだ。
人間性だろうが贄の血肉だろうが、何を犠牲にしても育てる覚悟が必要不可欠なのだ。

「そろそろ時間ですね」
「ああ。……何か光ってるな」
「安居の部屋と小瑠璃達の部屋ですかね」

動物舎から少し離れた本校舎と寮。
寝静まったそこでぴかぴかと灯りでやりとりしている様子が見えた。
モールス信号だ。
途中から読んだところ、安居と小瑠璃が連絡し合っているようだった。内容は俺達の『準備』そのもの。

「…流石目ざといな優等生」
「あと一歩でしたね」

あと少し早く気が付いていれば、あるいは誰かに気が付いたことを相談していれば、変わったのかもしれないな。
だが、既に火は放たれた。

「未来ではこの経験を活かしてほしいものですが…」
「まず最終試験で生き残れるかどうかだろう」

そう、生徒は皆死にうるのだ。
成績が良かろうとも運が悪くて。
武術に長けようとも恨みを買いやすくて。
人当たりがよくとも自力で解決する力に欠けていて。


そうした子供は方舟に乗る資格がない。

方舟に乗っても舟を沈めるかもしれない、新大陸で繁栄できないかもしれない。

だから俺達の公平で客観的で冷静な選別が必要不可欠なのだ。
これまでの点数は選別に向けて彼ら自身を磨く為のものであって、俺達の容赦や手心の為にあるわけではないのだ。

彼らが俺達をどう思おうとも。





昼間に水槽を置き続けて数日、安居や涼、源五郎が回収してしまうのでここからは不審火に切り替えようと決断したのが数日前。
生徒たちの目の前で何食わぬ顔をしていたからか、それとも生徒達には教師の不審さに目を向ける習慣がないからか、無事ばれずに計画を実行できたというわけだ。

生徒たちにとっては寝耳に水、だが俺達は何年何か月と前から予測し測定し実験し準備してきた結果の総決算。

一週間経つ頃には、きっと。

『行ってきます』

自由に動けるようになり、子供の甘さを捨てた7人が悲壮かつ誇らしげな顔でこう言うのだ。





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最終更新日  2018.01.09 22:25:19
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