Laub🍃

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2012.07.21
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カテゴリ: .1次メモ
 未来の為に今を犠牲にする。きっとそれが正しい生き方なんだろう。

「でも、だからってこれはないだろう!」

 俺の目の前には真っ黒ななにともつかないうごめき。

「大丈夫です、あなたはこちらの方と合体することで新しく生まれ変われます。次はもっとかっこいいひとになれますよ!」
「か…かっこいい…?」

 ぐらぐらと理性が揺れる。幹部として生まれながら地位が低く、下手すると普通の戦闘員よりも扱いの悪かった(まあ俺の燃費が悪いのも悪いんだけど)俺が…かっこいい、だと……
「ガルバリウム幹部様ってぇ、もっとかっこよくなれるとおもうんだ!がんばれば!もったいないよぉ」
 かっこいい。かっこいいか……

「よし、よろしく頼む」


「え、今!?いっ、いたっ、いたっ!なにこれいたい!!!いたいいいたいいたい!!!」
「新しい道を歩むには痛みがつきものなのですよ!!!」
「だからってこんなのきいて、いたっだだだだああああああ!!!」



 人間だったころの歯医者が頭をよぎる。食べるものが変わってからずいぶんと縁がなかった記憶だが、これはもうきつい。しかも痛すぎて失神もできないときた。


「いたいたいたい」
「だいじょうぶだいじょうぶ!」

 励ましてくれる博士、もとい可愛い幼女、みんなの妹。しかし今の俺には悪魔の羽が後ろに見える。

「・・・・・・・う゛ぅ…」
「あともうすこしもうすこし、はい、おわった~!」
「ひ、ひりひりする・・・・・・」
「しゃべれるんならだいじょうぶだよぉ!」




「…………かっこいいか…?これ……」
「かっこいいって!」

 かっこいいのか……?なんか、あまりもの継ぎ合わせたような、博士の失敗作をぶち込まれたような・・

「せんとうりょくはとにかくたかいから、そしきにはこうけんできるよ!よし、じゃあさっそくたたかってきて!ぼすがとなりのちくのヒーローがめざわりだっていってたからたおしたらほめてもらえるしかっこいいってなるよ!」
「よし!かっこいいか!!!」





 そう思って飛び出した俺がこてんぱんにされて戻り博士が治療してくれると思ったらさらに魔改造を施してくるという負のループに入っていると当のヒーローに指摘されたのは一か月後のこと。

「……なあもうやめようぜ?かわいそうになってくる…」
「かっこわるすぎてかわいそう」

「おれは……」


 ぶるぶると震える。

「おっ、おれは、かっこいいんだぁあああ!!!」

 ほとんど傷のついていない奴らに向かって飛び込む。足元は俺の破壊したがれきだらけ、そう俺はかっこいいんだ、こいつらが強すぎるんだ。
 だってそう信じないとあまりに哀れじゃないか自分が!!!

 信じる、俺のかっこよさを!!!


「だーかーら、かっこ悪いんだってそういうの」

 よろよろと走る俺の背後、唐突な衝撃。

 ゆっくりと気絶する寸前振り向くと、ダウナー系ヒーロー。俺のようにかっこよさを求めなくてもかっこいいといわれるタイプ。ちくしょう。ちくしょう、ちくしょう……


「……取り敢えず、俺らの仲間になれよ、お前。かっこよくしてやるから」
「……かっこよく……」


 かっこよさはこりごり、と言えない俺はほんとうにばかだと思う。

「・・・・・・・よろしく…たのむ」







そう言った一週間後、正義の組織の中でおもちゃにされる俺の姿があった。

「かっこよさって……なんだ……?」
「こうやって遊びに付き合ってくれるのはかっこいいよ!」
「そ、そうか…」

 どこか博士をほうふつとするヒーローイエロー(小学生女子)の天真爛漫な笑顔。
 ……まあ、こんなのも、悪くないか。





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最終更新日  2016.01.24 19:45:42
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