Laub🍃

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2012.08.19
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カテゴリ: .1次メモ
 鉛の弾が地を汚すそんな場所で、彼は空を仰いで寝転がった。

「……風邪を引くわよ」
「大丈夫だって!バカは風邪ひかないから」

 まったく、これだ。私が心配しているのが分からないのか、本当に馬鹿だ。

「良い眺めだね」
「どこが?」

 何もかもが焼けて曇りに曇った空のどこがいいのか。

「だって、邪魔するものはなにもない」


 数年前と違って、立ち並ぶ家もビルも何もない。山でさえ。



「変わったってことでしょう。色々なことが」

 山が大好きだった彼は、悔しくないのだろうか。

「風通しがいいから、ある意味ここも山ってことになるよね」
「そりゃあ、海に較べればそうでしょうけど…」


 地平線と水平線と、それからぽつぽつと並ぶ戦火。うごめく蟻の様な人々。

「鉛とか、灰とかを積み上げればまた山ができるだろ」

 そう言うのは、彼の先輩。特に山が好きなわけではない彼にとって、それはその程度のもの。

「そうですね。死体とか?」


 塵も積もれば山となるという言葉のように、この国には、いや、私達の立つこの地平にさえ。

「既に足元に沢山居ますよ」

 それはまるで潰れた蛙のように。



 その一部が増えようがへっこもうが関係ないとでもいうように。

 戦は今日も続いている。人々は今日も争っている。
 その一部が天に昇ろうが地に沈もうが関係ないとでもいうように。


「同じになったんだな、全てが」
「特別だと私達が勘違いしていただけでしょう」



 山の支配から風の支配へ。

 すべては変わってしまったけれど、

「いい加減起きなさい、いつ敵襲が来るかも分からないのに」

 彼を引っ張り上げる時の目線の変化、ちょっとした手の凸凹の違い、彼にかかる逆光。

 凸凹は私達だけのものになった。


 平らな世界の中できっと彼は、人を昔よりもずっと見てくれるようになっていくだろう。
 私はそれを、不謹慎ながら楽しみにしてしまってもいる。

「そんなのすぐに分かるよ。だってこんなに眺めはいいんだから」


 そう言った彼は、笑顔のまま地中から飛び出た何かに貫かれた。





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最終更新日  2015.07.24 04:59:16
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