Laub🍃

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2012.12.28
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
「一緒に行こう」

 親友からの返事はない。
 だけど、今もきっと笑っているんだろうと思った。







これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと思った。
 ……これ以上、憎まれながらあそこに居ることに耐えられなかった。


 だから、書き置きだけ残してあの村を出た。
 背中には親友だったモノを背負って。


 今、沖の上ー一つ拝借してきたボートの上。オレは日に日に臭いのきつくなる親友を見てため息を吐く。



 あの僧侶は信頼できそうな男だった。
 彼に任せておけば、きっと親友はきちんと埋葬してもらえただろう。

 だが独りでは耐えられそうになかった。

「……ごめんな」

 返事はない。

「……ありがとう」

 返事はない。

 いつものあの笑顔がない。
 オレの存在を肯定する笑顔がない。

 それでも、もうこいつはどこにも行かない。
 オレの傍にずっと居る。



 あちらに着いたら、きっと。
 きっと、お前に丁度いい場所に埋めてやれるから。





 とにかく新天地に着きたかった。
 あそこではないどこかに行きたかった。



 一人では生きていけない。
 オレはきっとあの中で誰よりも弱い。

 毎日、ボートがひっくり返らぬように、せっかく獲った食料が腐らぬようにしてから眠りに着く。
 隣に親友が居るから、悪夢は見ない。
 身体は硬くて、恐らく崩れてもいて、潮の臭いと発酵させ過ぎた漬物の臭いが混ざり合って。

 だけど、夢の中ではずっと親友が隣に居て、微笑んで、時には話さえできる。

 リーダーなんてどうでもよかった。
 未来なんてもっと違うものだと思っていた。

 オレが望んでいた世界は、夢の中にあった。

 毎朝起きて知る現実が、今では悪夢のようだ。


 そのうち、認識がひっくり返るのかもしれない。
 海の藻屑となっても幸せに笑っているのかもしれない。
 惨めで情けない、だけど今のオレに相応しい末路。

 ー悪夢をまだ現実と認識させる、あいつらの顔が薄れてくれば。



 ライバルの顔を想いだす。
 あいつは今頃心配しているだろうか。
 -いや、でも、今はあの娘が居るから大丈夫だろう。

 あいつらは、オレと関係なく、幸せになってほしい。
 どうせ、あいつに甘えてばかりで悪いと思ってた。
 すまんと言っても、あいつはそんなこと気にするな、お互い様だと言ってくれる。
 逆にあいつが、どうしようもない我儘を言って困らせることもある。

 あいつは自分への信用を犠牲にして、自分を止める誰かを綺麗に見せようとする。
 その行動に気付かない振りをしていた。
 未来に来てやっと分かったことの一つ。
 あいつは本来いい奴だ。
 下手に正義漢ぶるオレよりもきっと、ずっと。

 ……オレが居なくなればきっとあいつもやり過ぎることなんてない。
 だから、これでいいんだ。


 ……あの子も心配だ。
 だけどーあの子はきっと、あのやさしさで、あの柔らかさで、あの芯の強さで、生きていけるだろう。
 また泣かせてしまうのかもしれない。
 この世界に必要と言ってくれたのに、勝手に姿を消してしまった。
 ……罪悪感。


 -いつか、いつか、戻ろう。
 その時までに、きっとお互いにもっと強くなっていよう。



 ……オレが償わねばならない相手。
 何もするなと言ったあいつ。
 強制労働がいいかと言ったあいつら。

 あいつらはどう思うんだろう。
 逃げたと思うのか。
 オレがかつてあいつに思ったように。

 だけど、オレと話すだけで熱を出したあいつの様子を思い出すと、オレが顔を見せるだけで固まったあいつらの様子を考えると、やはりあそこには居ない方がいいだろうという独断が勝つ。



 ずるいのか。

 もっと、あがいて、苦しんで、接することなく、気付かせることなく、償い続けるべきだったのかもしれない。
 -オレが、オレ達が先生達に受けた仕打ちなんて、あいつらには関係ないんだから。
 昔と同じように、オレ達の法で、オレ達の倫理で、オレが信じてきたものが通用すると思っていたオレが、馬鹿だった。
 全部、今現在の集団の和とは関係ない。
 なあなあにすることで、賢く振舞えばよかった。

 今現在の和。
 そう、オレが居なくなることで出来上がるのもそれだ。

 死んでしまえば。
 消えてしまえば。

 全部、赦されるのかとあの時嘆いた声が今のオレを刺す。

 ずるいんだろうな。

 だけど、これ以外にどうすればいいのか分からない。



 新しい世界。オレは、あいつらのように体当たりで接することができるだろうか。


 早まったかもしれない。
 そう何度も思っては掻き消す。

 未来に来るまで一度も振り返らずにやってきた。




 -だから今度も、いや、今度こそきっと、それで、うまくいく。




 そうでしょう、先輩。


<終>





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最終更新日  2017.10.09 03:18:28
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