Laub🍃

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2015.04.23
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カテゴリ: 💫復活裏
あと、ちょっと。 手を伸ばせば、届いたはずだったんだ。






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手の中に君の未来を握る



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あと、ちょっと。 手を伸ばせば、届いたはずだったんだ。





「ねえ、山本。」
「んー?」
「もう見舞いになんて来なくていいよ。野球の練習とか・・・忙しいだろ?」
「あはは、大丈夫だって!」

それよりお前の顔を見られないほうが寂しいんだよ。
俺の目の前に居るのは、親友のツナ。ツナは中学からの友達で、数か月前から病気で入院している。

「・・・全く・・・」

ツナは俺のにかりと笑った笑顔に弱い。
それを知っているから、俺は今日もごまかすように笑う。
どうでもいい、ツナに見てもらえないヒットもホームランも。

「ツナが治ったら、一緒に遊びに行こうぜ。」

今は夏休み、この部屋の外では子供達が遊びまわる楽しげな声がしている。
この部屋だけが涼しくて落ち着いていて静かでー静かすぎてー時が止まったようで、俺は、それに焦るように声を明るくする。

「・・・・・・そうだね。」

一瞬笑ったツナの顔は、柔らかかった。-不安になるほどに、儚かった。



それでも、この世界は、俺達だけでできたこの世界は、守られていた。










side:ツナ



今日も山本は来る。

「ツナ、遊びに来たぜー」
「山本」

読んでいる本から顔を上げる。
山本は相変わらず爽やかな気持ちのいい笑顔を浮かべていて、
それだけで静かなこの部屋が一気ににぎやかになる気がする。
でも。

「あのさ、山本も色々大変でしょ?こんなに毎日来なくてもいいんだよ」

何度目かの言葉を口にする。
山本の為だと思って言う言葉。
・・・けれど、山本はいつもそれを笑って誤魔化す。

「・・・・・・」

・・・あれ?

「山本?」

今日の山本はどこかおかしかった。

「・・・そんなに、嫌か?ツナ」
「え?」

目の前の山本は、今までに見たこともないような暗い顔をしていた。

「そんなに俺の顔、見たくねーのか?」

絞り出すように言う山本に、つい言い返してしまう。


「そ、そういうわけじゃないけど・・・でも、心配っていうか・・・」
「そっか!」

山本の顔がぱっと明るくなる。

「そーか、なら大丈夫だぜ。心配してくれるなんて、俺愛されてるなー」
「は?愛されてるって、山本・・・っ」
「へーき、へーき。練習疲れのこと心配してくれてんだろ?
 だいじょーぶだって、俺体力バカだから」

そう言って笑う山本の目の下には、少しずつ濃くなっていく隈があって。



駄目なんだ。駄目なんだよ、山本―――――





けれど、俺は山本を止められなかった。

それは俺のエゴだったのかもしれない。






















side:先生








今日、山本が死んだ。

数日ぶりに訪ねたそこには既にたくさんの人影ー奴の父親や友達が居て、
皆の悲壮な表情にも関わらず、奴だけが安らかな顔をしていた。







奴はきっと、最期にあいつと二人きりの幸せな夢でも見ていたのかもしれない。
















二人きりの旅行。刺客の危険もあるそれに、どうして俺が行かせたかー

ー俺にしては甘々だ、来年からツナと山本は引き離されるからと

どうしてもイタリアに行くツナとどうしても日本に残るという山本に、
最後の思い出ぐらいはやってもいいかと思ったからだ。


甘かった、馬鹿だった。





ツナは帰ってくるときにはもう死ぬ気弾なんて撃っても意味ないような状態で。
最後に一言、「ごめん」と言い残すと逝ってしまった。
馬鹿野郎と言う暇もなかった。






山本はーー山本は、ずっと眠り続けていた。

誰が呼びかけても反応しない、それはツナの居ない世界には戻りたくないと言うような意思表明のようで。

それでも生かそうとする機械に囲まれて、山本はずっとこっちに引き留められていた。





奴は命をツナに捧げていた。

そのツナが居なくなったら――――。

あいつは大好きな青空に上って行った。あの日のような青空に。



正直、山本はどうでもよかった。ツナが居ない今、守護者としてのあいつには何も価値がない。
けれど、あいつが居ることでツナがまだこの世にあいつを残そうとしているのだと、



それも、今はもう無い。




「・・・どうするか」



そして俺は長年親しんだ教え子が死んでも、組織の為にと考え続ける俺に戻る。
結局ツナには組織としてしか見ることが出来ていない自分には呆れすらわかない。

ボンゴレの為にと言い続ける俺たちよりは、まだ山本とずっと一緒に居られただけ、「十代目」じゃない「ツナ」にとってはよかったのだろうか。







side:?





あの日手を伸ばしたのは俺からだった。


けれどツナは拒んだ。


逃げるなんてとんでもないと、やっぱり約束は果たさなくちゃいけないと。

俺のことは大事だけれど、ツナが逃げたら沢山の人が苦労するから、死んでしまうかもしれないからと。


分かっていた。分かっていたけれど分かりたくなかった。



そしてツナは俺の顔に怯えた。
きっと見たことがなかった顔だったんだろう。
俺もきっと誰にも見せたことのないような顔をしていたんだろう。


後ずさったツナの後ろにあったのは崖だった。


その後はあっという間で、自分が何を考えたのかツナがどんな顔をしていたのか断片的にしか覚えていないけれど


気付いたら、俺は一緒に落ちていた。


一瞬だった、手をツナが落ちた瞬間に伸ばしていればツナも俺も助かっただろう。


けれど俺は考えてしまった。

ここでツナが死んだらツナはもうどこにも行かないってことを。

ツナの表情は絶望に塗りつぶされて、だから俺はまた手を伸ばした。




空を掻く、もがく、溺れているみたいに必死で手を伸ばす。

ツナの手がこちらに伸びる。その顔は安堵に包まれていた。

伸ばした手は今度こそツナの手を掴んだ。



その時には、俺もツナもどちらも空の中に居て

俺はツナの顔だけを見ていて、ツナは諦めたような、でも少し幸せそうな笑みを浮かべていて
そしてきっと俺も似たような顔を浮かべたと思う。

ツナなら小僧の言う死ぬ気とやらがなくても生きられるかもしれないと思った。
それがもしできたら、俺は負けたと思っただろう。

今度こそ、ツナを諦められると。俺が居なくてもツナは――――


けれどツナは俺を振り払うこともせず、あの時みたいに生きようと死ぬ気になるでもなく、
ぎゅっと俺を抱き締めた。

その途端世界への執着とか諦めとか全てが吹き飛んで、俺はもっと強い力でツナを抱き締めた。
徐々に増していく力にツナは何も言うでもなく、強い風の中で吹き飛ばされないようにしがみつくみたいに
恐怖を不安を未練を押し殺すみたいに俺にすべてを託すみたいに






そして思考が途切れた。





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最終更新日  2017.10.16 06:42:38
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