Laub🍃

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2016.04.17
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
涼(77)視点。安居や涼に子孫が居ます。




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安居が死んだ。
こんな世界で77歳は大往生だ、と言われた。
ろくな治療設備もない中、病気や怪我をほとんどしてこず綺麗な体で死ねるだけよかったのかもしれない。

それでも、早すぎる。

まだまだ安居には沢山の使命を果たす時がくる筈だった。


最近具合が悪くて、だけど今日は少し調子がいいからと仕事に精を出していて、このまま快復すると思っていた。
それなのに、少し目を離した隙に安居は倒れていた。

『安居』
『……ごめん。もう少し頑張れると思ったんだけど』
『逝くな』
『……ごめんな』
『逝かないでくれ』
『…後は、頼んだ』
『やめろ』

幼い頃から基本的にずっと張り合っていた俺達は、死ぬ時まで同時期だと思っていた。

『安居…!!』


生き残った仲間や子孫に囲まれて、稀に見る、幸せそうな顔で逝ってしまった。

ずっと俺は安居の背中についてきた。

もう今は居ない。
新たな道を見出す為の光が、また一つ消えてしまった。

安居を茂の隣に埋葬した。




日々は何事もなく過ぎていく。
俺は未だに危なげなく生きている。

だが、何の為に生きていけばいいのかが分からない。
安居の遺した作りかけの建造物、補修しかけの繕い物を一つ一つ完了していく毎に、安居が消えていくような気がする。

35世代目の蜘蛛の世話も、新たな土地への進展も、外国の奴らとの馴れ合いも、適当にやっていれば終わってしまう。

安居ならこうした日々の中でも過敏に何かを凝視して、気付いて、そして新たな荷を背負い込むのだろうが、もうそれはない。

ちまきや、その子孫が大量に描き残した俺達の姿絵や彫刻たちは日々色褪せて、ひび割れて、補修していく内に少しずつ姿を変えていってしまう。

安居はそれを、生物の循環の一環だから仕方ないと言っていた。
俺にはそうは思えない。

紛い物の中に安居を見出したくないのに、紛い物しか見ることができない。
安居に関わる全てが日々変化していってしまうことが耐えられない。





昨日、安居の子孫が、夢枕に安居が立ったと言っていた。
施設の幼馴染が何人も迎えに来ていたと。
俺もいつか、夢枕に立つ側になるんだろうか。

……死ぬ前に俺には何ができるのか。




安居の子孫に、ぽつりぽつりと思い出話をしていくうち、俺達の人生について、安居の人生について、何か書き残したいと思った。

忘れていきたくない。忘れさせたくない。
たとえそれがどんなに苦いものだろうと。
それらを背負っているから、俺達は今日も次に繋いで行ける。

「……行こうか、安居」

想い出に救われながら、今日も歩む。
枠の外、幕の奥へ。





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最終更新日  2018.03.16 19:20:57
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