Laub🍃

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2017.01.03
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カテゴリ: 🌾7種2次表
小さい頃から秋、沢山の銀杏が舞い散る中で思うことはただ一つ。

「これが全部金だったらなぁ」

金がないことを呪ったことは何回あったか。

見付けた*

小さい頃から貧乏だという理由ただそれだけで俺は虐められた。
やってもやっても報われない虚しさ。
当たり前に持っている奴らが羨ましかった。

「秋を」
俺の名前にどんな意味をつけたかったのかは知らないが、実の父はそれだけ言ってこと切れたらしい。秋をどうするんだ。秋をどう見る子供にしたかったんだ。
訊いても答えは返ってこない。


男ー義父は、結婚してから本性を現した。
美しいものだけを追い求め、実を結ばずに夢ばかり語るのが義父という人間だった。

いくら母が無理して稼いでも、売れない画家の義父はあっという間にそれを食いつぶした。
幼い頃はそんな父にあこがれを抱いていたが、いつまでたっても芽を出さない義父に次第にその気持ちはすり減っていった。

あるベンチャー企業の社長に母が見初められるまで、俺は毎日足を引っ張る義父を憎み、そんな義父を捨てない母を憎んでいた。





母はその人になびかなかった。
けれどその人は憤ることなく、母の気概と技能に惚れたのだと雇ってくれた。
俺はその人に憧れた。
その人のようになりたいと思った。

だから俺は、未来を創る仕事ーベンチャー企業を支える仕事に就いた。


多くの人々が自由になっていくのを見た。
そしてじきに、自由になった人の過半数が沼に沈むのも見てきた。


縛られてきた世界を憎みながら、俺は自由の世界も憎んだ。
泥の中で酸いも甘いも噛み分けた。

銀杏は次第にただの葉になった。


俺は自分の力で新しい世界に踏み出したんだと、心底満足していた。


それなのにーーーーーだ。


そんなある朝、目覚めたら文字通り新世界に送り込まれていた。


どうやら地球は滅び、俺たちだけが生き残ってしまったらしい。
健気な母もあこがれの社長も馬鹿な義父も俺なりに信頼関係築いてきた仲間も全員死んでしまったらしい。

嘘だと思った。
何度も何度も。

送り出したあいつらは?
成功して嬉しそうな顔をしていた社員たちは?
立ち並ぶオフィス街は?

ー全てが海の中に消えていた。

俺のしてきたことは何だったのかわからなくなった。
毎晩毎晩仲間と昔話をした。

初めに動けなくなったのは、飄々としていた朔也だった。
お蘭が叱咤激励してどうにか動き出しはしたものの、あいつは一人で何かしようという気力を失っていた。
初めに目が虚ろになったのはくるみで、ミルクを絞っている時、虚ろな声で何事かをつぶやくようになった。流星のナンパな口調をあしらう気力もないようだった。

口数が急に減ったのは茜が最初だった。仕事はしていたが、仕事以外の事を一切口にしなくなった。
口にしたら折れてしまいそうだったんだろう。

昔話が尽きる頃、一人また一人と生きる気力を失っていった。

お蘭がノルマを作るべきと言い出した。
俺もそれに乗った。

ノルマがあれば、生きる目標になる。-生きる理由ができる。

十六夜が情けない顔で見ていたが、睨んだら悲しそうな顔をして目を伏せた。

「死にたい」

お蘭がトサカのある鳥を絞め殺した。

「死にたい」

家を作る為に作業していた時、はぜのような植物で手がかぶれた。
入日色の指先は義父の書いた絵を思い起こさせた。

「死にたい」

口笛のような百舌鳥の声。
何度聞いたか。

死にたいと思ってないような顔をした夏Bが羨ましかった。




それでも、ようやく生きようと思えた頃。

くるみと流星が子供を作って、春や冬のお陰でお蘭もそれを認められると思った頃。

夏Aが現れた。



轟音の直後、一瞬紅葉が散っているのかと思った。

「ー十六夜…」



全てを奪うものはここでは金でなく銃だと思い知った。

憎しみと諦めと悲しみと、全部がごちゃごちゃになって襲ってきた。
俺達には、残された仲間を守る手しか残されていなかった。


二度と会わない。
会わなくていいと思った相手だったのにーどういうことか。

物資を頂く為。怪我した仲間を助ける為。技術提携をする為。
気が付けばそいつらと一緒に暮らしていた。
その日常は奇妙で、そして刺激に溢れていた。

それでも俺たちはこの時の為に人間への刃をー猜疑心を磨いてきたのかもしれないという思いは消えなかった。


初めは頭がおかしい奴か、ひたすらに特権階級意識の奴だと思っていた。
だが操作されるようにして銃を操るそいつらはそれですらなく、温室育ちのガキが慣れない銃に支配されてるようにしか見えなかった。

金に困った経験がないくせに。
理不尽なー未来につながるわけでもないくだらないものに振り回されたこともないくせに。
ここに来るってことを教えられていたくせに。


殺されてた?
死にたいと思わなかっただけマシだろ。


狂言でないとしても、実際そいつに殺された十六夜の最期を思い返すと
「それでなんで他人を撃っていい理由になる」
と反発心しか湧かなかった。

実際どんな状況だったのかは分からないし、もしかしたら俺たちの想像するよりずっと悲惨な目に遭ったのかもしれない。
それでも他人を縛ることしか知らないようなそいつらには、ただ従うのは癪だった。





クソガキに、自由ってのはいいもんでもあると言ったのはどうしてだろうな。
子供の頃の、外にどんな世界があるかも知らなかった自分と重ねたからだろう。

生きるために色々なものを犠牲にしてきたそいつらが、もしも自由を得ることを知ったらー

「そうしてもいい」
「誰ももう縛り付けてない」
「自分で決めていいし、自分で責任をとっていい」

そう知ったらどんな顔をするか、ふと見てみたくなったのかもしれない。


そいつらにとっての秋は、どんな秋だ。
施設で未来以外にどんな秋を見てきた。どんな秋を通り過ぎて来たのか。

高い秋の空をどんな目で見上げて来たのか。

ーどんな目で、見上げるようになるのか。
どんな歌を歌うのか。

聞いてみたくなったのかもしれない。





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最終更新日  2017.05.13 23:10:20
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