Laub🍃

Laub🍃

2017.03.17
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
※15~16巻の火水キャンプ中イメージ。
某モンペの口数がやたら多いです注意。






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 それは、少し前は過去ばかり見ていた。
 そして今はどこも見ていない。


 真っ青に澄んだ空虚な青空の時間は終わりだ。
 今、オレ達の目の前には暗く淀んだ珈琲のような闇が立ち込めている。








 水の音を聞くと、いつも過去での最後の一日を思い出す。


 茂は自分でロープを切って安居を助けた。
 素直に凄いと思った。
 オレにはできなかったことだ。
 あいつに安居は生かされた。
 だから安居は生きなければいけない。
 茂に言われたような、茂とオレが昔から見ていたようなちゃんとしたリーダーとして綺麗に生きなければいけない。
 だからオレはその遺志を継ぐように、安居のフォローをすることにした。

 だが、そんなことも追いつかないくらいに未来で安居は暴走を繰り返す。あいつらを連れて来られたらと。茂の代わりに復讐すると。茂はきっとそんなことを望んでいないだろうに。
 少し前、過去を見ていた安居の目は最早もうどこも見ていない。
歪んだその姿は愚かで醜くて、それでも真っ直ぐで痛々しくて綺麗過ぎて、どこかに行ってしまいそうな、夜に消えてしまいそうな危うさがあった。

 安居が馬鹿な自殺行為を繰り返すのは、他の仲間が受け容れている未来と一般人との絆からひたすらに目を逸らして怒り、泣いているのは、まるで過去に殉じようとしているようだった。
 オレはその背を追って引き留めることしかできない。
 目を逸らしてそいつの独り言を聞く事しかできない。

 見張りを終えて帰っても、安居が碌に寝てないことはざらだ。


「…教えてよ……」

 そして、茂と要先輩に安居は無意識で問いかけている。オレにはそう言わない。
 ……言われても、本当にこいつが望む答えなど、返せるはずもないが。

 いつも真っ直ぐに先頭で走っていた安居は、真っ先に蜘蛛の巣に囚われて、同じ所でもがいている。
 その手を今はもういない人に伸ばしながらあがいている。
 その姿はきっと一般人なら哀れだとか、どうしようもないとか、現実を見ろとか言うであろう恰好だ。大きくて小さな背中。
 呼ばれている当の茂がここに居たら頼られていることを喜んだだろうか。要先輩は「自分で考えるんだ」と言っただろうか。
 呼ばれていない昔ながらのライバルが、どこかふらふらしているそいつの最後の砦であることにどこか満足をしている一方で、そいつが立ち直って自分で考え始めるのを望むことは矛盾しているだろうか。

オレ ライバル の役目は何だ。

 長い夜、単純作業の最中にはそう考える事が多い。

 オレは何か言わなければいけないはずだ。
 目の前のこいつの尻を叩くようなことを。前へ進ませる一言を。

 だが、失敗したら今度こそ完膚なきまでにこいつは壊れてしまうのではないかと思うと何もできない。そんな今のオレと安居はライバルですらない。目指す先は壊れ、一緒に喧嘩しながら歩いて来た道は闇よりもなお暗い過去の中閉ざされている。

お前の目指すものはもうどこにもないんだ。

 …そんなこと言える筈もない。



「涼!…交代の時間か」
「……ああ」



 皮肉や煽りを沢山言ってきたこの口も、いつも通りでないやつを目の前にすると碌に動かない。




「寝てろ」
「……ああ」



 正直送り出すのも怖い。

 だが、こうして何かを任されているからこそこいつの正気はかろうじて保たれているのかもしれない。

 『いつも通り』を装うしかない。



 もう一度テストをやり直せたら、本当にまた『いつも通り』に戻れるのか。


 それとも、もう無理なのか。







 寝転んで見上げた空は、まだ暗かった。





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最終更新日  2017.03.30 12:33:54
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