Laub🍃

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2017.04.03
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カテゴリ: .1次小
全てを好きになろうと、幼い頃誓った。

否定されるととても悲しい気持ちになるから、人にはそういう気持ちを持たせたくなかった。

それ以外にあたしには、生き方が分からなかった。

「お前は私の知ってるお前じゃない」

母さんのためにがんばってきたのに、そう言われた。
あたしはかけらも甘えてはいけないということをそこで知った。

聞き分けのいい、いい子でないといけない。我慢してすべて気にしてないそぶりを見せて。
母の望む子供にならねばならない。
でないとあたしは生きていてさえいけないのだから。


自分の身を覆うものさえあれば、相手を否定しなくても、傷付かないことが出来る。
だから周囲の人に何かを褒められる度、あたしは進んでそれを身に着けた。
喩えそれが気まぐれだろうと、多少のおべっかだろうと。
あたしの鎧は増えに増えた。

じきにそれは、憧れる相手の真似にも至る。
喩えそれが一時的な姿だろうと、化けの皮だろうと、私はその真似をした。


「あなたは私のしってるあなたじゃない」

やっと母の望みに答えるのにも慣れ、家の外に世界が出来た頃。

友達にもそう言われた。少し友達に合わせようとするとこう言われた。
あたしには駄目な友達を受け入れるために駄目になることのなにがいけないかわからなかった。

幼い頃読んだ童話を思い出した。烏は皆に褒められる為に、色々な所から丹念に羽を集めて着飾るのに、結局全てを剥がされてお前のもとはこんなに汚い黒だと笑われるのだ。



あたしはその物語を読んだ時泣いた。
この烏の羽の色は、七色でいいと思った。
だってこの烏はそうなる為に時間を、手間を、犠牲にし惨めに這い蹲って探している。

当たり前に何も持っていなかった。
生まれつき持っているものは、嫌いたくないし嫌われたくないという想いだけだった。


それでも拾えば惨めで愚かな自分でも、綺麗になれるのだと。

誰かに愛してもらえるのだと。

それなのに、それが本性でないというただ一点でそれは馬鹿にされる。
どんなにその化けの皮を造る為に頑張っていようと、どんなに化けの皮が本性であればと願っていても、その皮を本物にしたいと思っていても、それは結局ただの嘘として捨てられる。

どうして相手の望むことをしたらいけないのか、どうして相手の好きなものに自分を合わせてはいけないのか。
勿論全部は駄目だということくらいあたしでも分かってる。全部を合わせるのはそれは単なるコピーだ。そういう映画があったけれど、気持ちは少し分かるがそこまでは出来ないと思った。だって相手が嫌がっているのに、それを続けるなんておかしいし、相手が相手であることで全肯定したのに「そんなの貴方じゃない。これからはあたしが貴方の代わりに」なんて言う筈がない。
それは相手の笑顔を奪うことで、相手の存在を奪うことなんだから。
相手を本当に好きなら、相手が自分自身の存在を疑うことなんてすべきではないことくらい分かっていた。

けれど相手の一部分を借りるなら、それも好意を持って真似るのであれば、それくらい赦されるだろうと思った。
あたしの羽は元の色を覚えてもいないけれど、到底人を魅せられるものではなかったから。
人を不快にさせる色だった筈だから。
そちらのほうが相手もいいだろうと。親和性に尽くしたのに。
どうして好きになる事という幸せな事だけじゃなくて、嫌な事、辛く苦しい事を含めた嫌いになる事を選ばないといけないのか。
どうして相手が相手自身好きで嫌いな所を、『好き』だけで真似てはいけないのか分からなかった。


全てを好きになるように自分に命じたあたしには、何かを嫌う気持ちが分からなかった。



「思っていたのと違う」


あなたまでそう言うのか。
それまで優しかった彼氏は、一度の失敗であたしをどうしようもない人間だと言った。
あたしに一度も振り返らなかった。

その一度がとても彼にとっては大きかったらしかった。


白鳥のように白い彼は、塗りつぶしすぎて真っ黒になったあたしを歪だと言った。
彼が何を言ってもあたしはそれを身に着けるだけで、その芯には届かないから虚しいとも言った。


彼のどこにあたしは嫌な思いをさせてしまったのか分からなかった。
それまで彼を笑顔に出来るようにだけ頑張って来たから、辛い事からは逃げていいのだと振る舞ってきたから。だから自分自身が辛い事になった時どうすればいいか分からなかった。



そんな時、学校で性格分析テストとかいうものをやった。
あたしはどう答えればいいのか分からなかった。


どう答えれば、目の前の人に愛されるのかは、なんとなく分かる。
だけど無機質なそれにどう答えればいいのかは分からなかった。

自分を誤魔化すとそれが分かる?
あたしには誤魔化しかないのに。

それでも分析できると言うのならやってみろ。
そう、呪いのように思った。



結局、普段過剰に怯えながら過剰に強く振る舞って笑ってみせることを、
自分はなんでもできると暗示をかけながらなんでもできないからこそそうしている自覚を、
人に依存せずその人に好かれるその姿こそが本性なのだと振る舞う裏でその人に依存している事を、

全て真ん中に近い選択肢を選ぶことで示した。
無機質な診断にこそ、SOSを求めた。




あたしの心の考える芯はなんだろう。

愛されたいと願うことなのだろうか。
それとも、誰かを幸せにしたいと思うことなのか。

笑顔を見たかった。
笑顔にしたかったし、自分の笑顔で同時に誰かを幸せにしたかった。

媚びと怯え、愛と笑顔を欲しがるそれらが分厚い皮になって、本体になっている。


たまねぎのように表層がそれぞれ息づいている。
建前が仮面が化けの皮が考えているけれど、どれも切り落とせるもので、隠せるもので、譲れないものなんてなかった。

あたしは化けの皮でできている。

誰かに愛されるようにかぶりすぎた皮が重なりすぎて、もう本体が見つからないのに、
烏のお伽噺のように元の色が分からないほどに塗り重ねたなにかに育ったのに、そうまでして尽くした相手はもう居ない。


あたしは何なんだろう。

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あたしは、何なのか。

未だに分からないけれど。


「生きていていい」と自分で自分に言えるような、そんな人になりたいと思う。



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後書き

『ありのままの姿見せるのよ』
どころか、ありのままの姿を持たない少女の話。

参考: カラス今昔物語





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最終更新日  2017.04.08 21:14:03
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