Laub🍃

Laub🍃

2017.09.02
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
※長くなってきたので分割

※胸糞悪いループもののダイジェスト風箇条書きメモ

※夏A→精神遡行
 ×
 他チーム→身体遡行
 ×
 故人→回を重ねる毎に復活

 というファンタジー欲張りセットな話

※目的→接点の少ないキャラの絡みキャラの葛藤、未消化部分の掘下げ

※カップリング傾向>NL:共依存嵐花+漫才蝉ナツ+夢見がち鷹あゆ+弁慶の泣き所角ひば等
  BL気味>茂と安居、涼と安居

※ダイジェスト風箇条書きメモ

1周目(なし)
2周目(安居回/嵐視点/十六夜参加)
3周目(源五郎回/鷹視点/犬吹雪・犬美鶴参加)


4周目(卯浪回/花視点/柳参加)
5周目(小瑠璃回/ちまき視点/美鶴参加)
6周目(あゆ回/ナツ視点/吹雪参加)
7周目(鷭回/茜視点/睦月参加)
8周目(虹子回/葉月視点/熊川参加)
9周目(涼回/蝉丸視点/親犬参加?)


※元記事:7周目へリサイクル

※以下4周目~







・四周目開始

・花視点


・卯浪周
・貴士先生についての話がある
・先生サイドネタいくつか
・卯浪柳の相似性
・柳さんが少しいい奴

*******

「卯浪先生と柳さんってどこか似てない?」
「名前の漢字も似てるし」

「……そうですねえ…」





「俺達はどこか似てるのかもな」
「……ガイド同士だからな」
「それもあるし、……仲間の信用がない所も似てる」
「…」
「俺はヒーローになりたかったんだ。女子供を守って、自衛隊に居るままじゃできないことをする未来のヒーロー。……結局、支配と効率だけじゃ、それは成し遂げられなかったけどな」
「…俺は別になりたいと思わん。オンの時は、使命を成し遂げる為の手段になってやるが、オフの時は与えられた権限を十分に楽しむ。それで充分だ」
「育てた子供に殺されてもか?」
「何が言いたい」
「……違う道を示してやりてえと思わねえか?」

*******


・安居が蝉をオッサン呼ばわりしない


*******


*3 末黒野花視点

「……ダメや、どの子も記憶を持ってへん」
「……まさか」
「まさか……!」


「……待ちくたびれたよ」

「ところでお前達は天使か?悪魔か?……それにしては随分と人間臭いが」




「…お前達はあいつらほど考えなしじゃないようだな」

「俺達今回抜けたい…」
「……しんどいけど、我慢や。くるみの為にも」

「何話してる」

「あなたと私達の目的が合うかどうか分からないって話してたのよ」

「……ならいいが」


「……どうして、あなた達はここまで彼らを『仕事しかない』ような人たちに育てたの。
 あれじゃワーカホリックじゃないの」
「趣味にかまけて貴重な17年や未来での寸分の時間を犠牲にさせるわけにいかんだろう」
「……」

 まるで道具扱いだと蘭は思った。
 だがそれを口に出すことは、ひどく楽しそうに仕事する生徒達を馬鹿にすることに繋がるような気もする。水を差したくなかった。
 それに蘭自身、ワーカホリックの気質を持ち合わせても居た。





「……」
「蝉丸さん?」
「お前…記憶があるのか?安居」
「蝉丸さん…?記憶って何の?覚えないんですけど…」
「いや、……どう言ったもんか」
「……安居、蝉丸をオッサンって呼ばないんだな」
「…?…秋ヲさん、どうしてオッサンって呼ぶと思うんですか?」
「…呼ばねえの?俺が要先輩をオッサンって呼ぶからって言ってさ」
「呼ばれたいんすか」
「いや、呼ばれたくねぇけどよ…」

気を取り直し、安居は椅子の材料を作ることに集中しはじめる。

「…じゃあ、蝉丸先輩って呼んでくんねえか?」
「それは無理っす」
「即答かよ!」




あたしは、ナッちゃんが少し羨ましくなる時があった。
小さくて、可愛くて、弱くて、仲間が必要で、優しくて、繊細で、よく気が付いて……
正義を背負わなくても動ける人。


ここの人達にひときわ憎まれていた卯浪。……どんな人だったんだろう。

父と同じように、子どもを顔色一つ変えずに殺したのか。


これまでは、めーちゃんや安居や源五郎さんに「近付かない方がいい」と言われていたあいつだけど、あいつだけが記憶を持っているとなれば、近付かないわけにはいかない。


 ……確信じゃない。
 傲慢な思い込みかもしれない。
 だけど、何か今回、あたしだから出来ることがありそうな気がしたんだ。

 ……嵐。
 藤子ちゃん、ちさちゃん。
 新巻さん、ハル。春のみんな、お蘭さんやくるみさん達秋のみんな、ナッちゃん達夏B……
 心配をかけるかもしれない。猪突猛進と怒られるかもしれない。
 だけどおとなしくこんな世界を見てるのはもう限界だ。






「……あのなあ、なんで俺に協力を求める?」
「俺はここで、かつての日常を演じるので精いっぱいなんだがなあ…」

「あいつら7人…鷭はまあ…微妙なところだが…とにかく、あいつらを危険因子として落としにかからないだけ、俺は『先生』、未来の『ガイド』としてよくやってると思ってほしいもんだ。
 あいつら…育てた恩も忘れやがって……
 お前らも、事情もよく分からん奴が、中途半端な覚悟で首突っ込んで下手に引っ掻き回しやがって」

「…おっさんよお…あんた、殺されるようなことをしたんじゃねえの?」
「蝉丸さん」

「何だと?」
「……死んだことを悲しまれないどころか、当然って思われることしたんじゃないの?
 涼や安居達ならともかく、小瑠璃にまでそう思われるって相当だろ」

 死んだことを安堵されるような人。
 居ないことを祝福されるような奴。

 何がそんな存在を造ったのか。

「…蝉丸さんと、ハルの言う通り、と言っては難ですが」
「今からでも、殺されないような立ち振る舞いはできないんですか?」
「…花…!」
「嵐、大丈夫だから」


あたしは、もしかしたら、ずっと気になっていたのかもしれない。

……何が、あの人達を『獣』にさせる切っ掛けなのか。


……それとも。休むことも知らないあの人達が、唯一役割から解き放たれた時が……ああして、感情を露わにする時だった、のか。





「要さん、俺も訊いていいですか」
「何をだい?」
「どうして、誰も成し遂げたことのない夢を追い続けられるんですか」

「僕が初めて叶える人になるかもしれないじゃないか。
 ……これまで成功したことがないことでも、これが初めての成功かもしれないだろう」


 めーちゃんが頑張ってなければ、あたし達はシェルターに入っていたかもしれなかった。
 だけどめーちゃんが7SEEDS計画を諦めず、お金を出してくれる人を募って、コネを集めて、色々なものを削り落としてきたからこそ、今あたしたちは生き延びてるのかもしれなかった。

 あたしたちは…本当に、彼らを止められるのか。
 何を犠牲にしてでも、人類存続という夢を叶えようとした彼らに。
 身近な……殆ど身内と言って差し支えない子たちですら、供物として捧げた彼らに。

「……なんか、百舌のおっさんも卯浪のおっさんも、フランケンシュタインの博士みてえだよな。
 自分が育てたフランケンシュタインにのされちまうなんてよ」
「蝉丸さん、フランケンシュタインは博士の名前です」
「それはどうだっていいんだよ!」

 …フランケンシュタインの育てた怪物は、博士を父と慕って、だけどその姿から失敗作と蔑まれて絶望した。その後悲劇が起きるんだ。……それで…その後、どうなるんだったっけ。




 バンドワゴン効果。
 長いものに巻かれるように、誰かを応援することを言うらしい。
 アンダードッグ効果。
 判官びいきするように、誰かを応援することを言うらしい。

 あたしが父という存在を背負っていることは、犯罪者の娘というアンダードッグに、権力者の娘というバンドワゴン、その両方を背負っていることを示していた。
 あたしが安居という存在と相対していることは、被害者遺族というアンダードッグに、未来に行く為に育ってきた元リーダーというバンドワゴン、その両方に立ち向かうことを示していた。

 あたしと安居はもしかしたら似ているのかもしれない。
 どうしようもなく互いを嫌っているという所でさえも。

 未来の世界で父は、あたしと嵐、そして藤子ちゃんやちさちゃんたちを生き残らせようと尽力してくれた恩人だった。

 だけど同時に、災いをあたしに押し付けて死んだ存在でもあった。
 関係ないでしょうと何度も言うたびに、父と赤の他人でありたい気持ちを打ち消してきた。

「自己犠牲。……とても美しいよね。僕には出来ないけど」

 そんな父を切り捨てる為、あるいは割り切る為にあたしは話に来たのかもしれない。

「僕はね、家族がとても大事なんだ」
「……僕の家族が泣くのに、ここの子供達は笑ってる。そんなことは許せない」
「だけどあいつらが泣いている時に僕が笑えばバランスが取れるよね」
「僕は弱くて狡い大人だ」

「こうでもしないと、僕の中の鬼は止められそうにないんだ」

「……個人的に、そう恨みがない相手に対して……そのまま骨折してしまえとか、そのままショック死してしまえとか、そのまま窒息してしまえとか、頭の中から聞こえる声に襲われたことはあるかい?…ないよね。君は正義感が強そうだ」

「……だから、きっと価値観もついぞ合わない……
 そんな僕は、君の説得には、悪いけど応じられない」

「あまり君と話したくもないんだ。知人に似てるからね」

「これで話は終わりだ」

「青野ナナ」




あの時と同じ。

パンドラの箱、あたし達はそれを開けてしまったんだ。

あたしはまた、この人たちに失わせて、傷付いていくのを黙ってみていることしかできないのか。


……新巻さんには、ぎゅっとなんて出来なかった。
何も出来ず、痛みだけ与えて、それなのに責められることもできない自分が恥ずかしくて、情けなくて、痛くて、見ていることしかできなかった。


だけど、この子には。

小瑠璃「……?」





「……要にも計算違いはあったんだな」

「…」

「………俺にも、こんな未来は有り得たんだな」

「全く、どこで俺は腐っちまったんだかな」
「自分の生き方に疑問を抱かない方が楽だと思っちまった時か」

「……今の俺の生き方も大概馬鹿馬鹿しいが」

「俺の生涯に意味はあった」
「そう思えただけ良かったよ」

「…………俺だって、鬼じゃないんだ」

「これが未来とやらの為なら、乗ってやるよ」

「……お偉方の説得が面倒だがな」

「ただし……」







*******



・8人になる

・四周目終了












・五周目開始

・ちまき視点?
・美鶴復活
・ちまき、画家としての腕がうなる

・小瑠璃
・卯浪をどうにかすれば8人入るのではという話になる



*******


「……冗談だよね?」
「卯浪を仲間?……」



「百歩譲って、…あたしたちに殺された卯浪は、仲間に出来たとして」
「……今、奴はそうじゃないよね」


*******



・一度大人数で逃げ出そうと試してみるが失敗する

・安居に告白しない小瑠璃
 ・赤い部屋に違うタイミングで入れられるor赤い部屋に入らない安居
  ・→鵜飼に防寒具・ロープなどを分け与える安居(orそうする茂を止めない安居)
   →飯を皆で食べる


 ・洞窟に入らない選択肢

 ・安居の年上への対応は
  ・13歳以降なら基本体育会系敬語(ただ反応はタメ口とか部活少年のそれに近い)
  ・相手(主に夏B)がタメ口でいいっていったらタメ口

*******

*4 守屋ちまき視点


タイムスリップする少し前、何か、目の前に絵のようなものが現れたのを覚えている。
今の佐渡と少し似た、けれど自然現象によって大きくえぐれる前の景色だった。
叢がさわさわ揺れて、遠くには木々と高い山々、隅にこぢんまりとした家が見える。

「リアリズム…?」

郷愁を呼び起こすような、夕方の絵だった。
…で、絵から何か、皆が作った楽器をもっと高性能にしたような…むしろ、今の技術では到底作れなそうな音がしたんだ。
音は音楽を奏でていて、どこか聞き覚えのある曲だった。
なんだったっけ、と、目と耳を凝らすべく近付いたその時、声がした。

「ちまき、危ない!」

後ろから牡丹さんが僕の腕を掴む直前、急に絵が扉のように真ん中からぱっくり開いた。
そして僕、もろとも牡丹さん達は光の中に吸い込まれた。

「……えー………絵の中に吸い込まれた…」

期せずしてダジャレを言ってしまった。

「うぐっ」

夕方の空のグラデーションがぐるぐる回って、直後に何か強くたたきつけられたような感覚がしたけど、クッションのような草で受け止められた。


「……いたた…皆大丈夫?」
「…うん…」


あたりを見渡すと、空はすっかり薄闇に沈んでいた。
「……どこだ、ここ…?」

「……佐渡…?」

螢ちゃんが小さく呟いた。








「ハルなら、音楽で語られてる物語に詳しいよね?それで何か喩えてみてよ」

「クラシックならいけるんやなあ。……かぐや姫の曲…なんてないから、てことかいな」









「逃げるって…どうやって逃げるよ」

「…今のあたしなら、なんとか、一人ずつなら運べると思うけど」
「小瑠璃一人にそんな負担させらんねぇよ」
「鵜飼くん」
「忘れてねえか?俺達水のクラスは結構長距離泳げるってことをよ」
「……それなら、植物クラスや土のクラスだって、船作りできるかもしれないよ」
「繭ちゃん…」



「ふん、別に心配する必要はねえよ。俺は安居より息が長いからな」
「そうみたいだな」
「安居、どうせならプールで勝負しながら、沢山練習しないか?」
「ああ!……嵐、楽しそうだな」
「……そうかもしれないな」



「戸籍って何だっけ」
「人権って具体的にどんなものだ」
「僕達の辞書には載ってなかったよね」
「…なんか、耳にしたこととか、本や歴史の勉強でちらっとでもきいたことねえのか」
「……そういえば…」
「茂、何か思い当たるのか?」
「うん!ほら、戦争の後、負けた国の人達が……とか」
「おお…」
「茂やるなあ」
「ありがとう」

(当たり前の倫理観なのになあ……)

「…オカネ…ってどう使うんだ。話には聞いてるが」
「自転車…乗ったことない」
「師匠まじかよ…」
「……」イラッ

彼らは信号も知らなかった。

「……一応一般教養の科目もあったから、直接知らないだけだ。
 車に乗ってる人間が使うのが赤、青、黄色だろ?で、歩いている人間が使うのが赤、青、点滅する青」
「ちょうどあたし達のミサンガと同じ色だね」





「……逃げる、ねえ。……海の近くの村で?無人島で?……遠くへ逃げるなら、車にしろ電車にしろ……海外にしろ、お金が必要よね」
「…何せ、これだけの大人数だからな」

 彼らは、自分達の人生においてどれだけ金や社会というものが影響しているのか実感していた。ハルも同様だ。

 『繭ちゃんに会いたい』と、たまに酷く魘されて飛び起きた後の小瑠璃を何度抱き締めたか分からない。だけどそれでも小瑠璃は救われない。ハルはいつかその願いを叶えたいと思っていた。




「外の世界…」
「好きな場所」
「好きな服」
「普通の家族」
「お金」
「自由」

「テレビで見たあれが、現実のものになるなんてな」
「ああ、それと、外の世界なら、流れてる時ちょうどのニュースとか、好きな番組とか選んで見られるんだよな」
「楽しみだなあ」





「ないものはないんだから、考えるだけ無駄じゃないの」
竹の細枝を落としながら虹子さんが言う。
「外の世界の大人ってめんどくさいこと考えるんだなー」
痛み始めた飯に納豆を混ぜて臭いを誤魔化しながらあかざくんが言う。
「ま、あるもんでなんとかしてこうぜ!」
漬物もどきを川の水で洗いながらちゃっかり4銃士の一人が言う。

「ほう」
「……なんだよ」

秋ヲさんと蝉丸は関心した様子で笑う。

「夏のAにも、こういう奴ら、いたんじゃんか」



そんな和気藹々とした様子を見守るさなか、誰かが「いてっ」と声を上げた。

「木のとげが刺さった」
「そんなに細いとげじゃないし、途中で折れてないから大丈夫」
「血が出てきた……」

僕はなんとはなしに、脱出したあの日のことを思い出していた。



あの日、少人数で別れて行動することになった時。

『う な み』

小さく呟いた小瑠璃さんの小さな小さな背中からは想像もつかない程大きな殺気がぶわりと漏れ出た。

小瑠璃さんは、居眠りをしながら見張り番をしていた卯浪先生にすり足で近付きながら何かを取り出す。
幽霊画のモデルにしたいなあ、なんて場違いなことを思っていた僕に、小瑠璃さんは唐突に話しかけてきた。

「ちまきちゃん、ハルを別の所に…そこの小部屋でいい、放り込んで」
「小瑠璃!?」
「……え?」
「鍵も閉めてね。大丈夫。すぐ終わる」

戸惑いつつも、ハルくんを扉の外へ追い出し、先ほどくすねた鍵で施錠する。

「……!!」

ハルくんの声が聞こえなくなった。
音楽家として大事な筈の手を強く奮い、声を枯らしている。……ちょっと心配になってきた。
「……本当にどうしたの?」
「……巻き込んでごめんね、ちまきちゃん。……ちょっと衝撃が強いと思うから。…ああ、でも、ハルには聞こえちゃうかな」




耳良いから、と呟いて、小瑠璃さんは斧を振り下ろした。









染料みたいで、結構綺麗なんだな。


これを使って描いた絵は、子どもの頃父に聞いた怖い話のように魂が宿るんだろうか。

案外、綺麗だ。
……これなら、画材にする気持ちも分かる。








小瑠璃の姿が唐突にかき消えた。

繭が渡そうとした懐中電灯がぽとりと落ち、小瑠璃の傍に居たあゆを照らす。

小瑠璃は消えた。

小さな小鳥のように、どこかに飛び立っていってしまった。



「繭ちゃん、皆が……」

未来からやってきたという皆も姿を消してしまっていた。



残されたのは茫然とする生徒達、そして。


「……君達、もう、帰る時間だよ」

家路のように暖かな声をかけてくる要だった。




*******

・8人になる…?

・五周目終了






・六周目開始

・ナツ視点
・吹雪復活

ナツ(蝉丸さんとテンション似てるなあ…)
新巻「……昔、君達と出会った時、なんだか見た事ある関係だなあって思ったんです」
嵐(良心の呵責)



・あゆ周
・いじめっ子に対しどう対処するか問題
・逃げ出そうという提案を蹴るあゆ

*******


*5 岩清水ナツ視点


「…何回、繰り返すんでしょうね」
「ゴールは、いつ来るんでしょうか」

繰り返せることは、安心だ。
やり直せることは、安全だ。
だけど、ずっと繰り返し続けたり、やり直し続けるのは、何も変わっていないのとどう違うのか。
世界の理にあらがっているからと、調子に乗っていた。

よくも悪くも、リミットが欲しい。……結末が欲しい。
終末を願うなんて馬鹿げているけれど。

「出来れば、ずっとここに居たい……なんて、夏Aがもし全員私達と同じようにタイムスリップしてたら、そう思ったのかしらね」




何のためにあたしは頑張ってきたんだっけ。

……何のために、あたしは、生きてきたんだっけ。


「あたしは…未来の世界に行くまでは、ナッツが居るのと、家族が居るのと…
 本の続きを読む為に、あの時まで生きていた気がします」
「……本?」
「はい。無人島とか、孤立した洋館とか、空の彼方とか、どこへでも小説を読めば飛んでいけたんです。……その時だけは、暗くて弱い自分や、重く沈んだ部屋、何より他の人へのコンプレックスを忘れることが出来ました」

架空のエピソードに胸を躍らせていると人は笑うだろうけど……あの時だけは、あたしはあたし以外の人の価値観に染まれて、あたし以外への対応に身を浸らせることが出来た。

「……私と…ある意味似てるかもしれないわね」
「え?」
「私も『馬鹿の居なくなった綺麗な世界』として、未来と未来に行く自分を夢見てきたわ。
 ……おかげで、その為に必要ないもの全てを睥睨して、全て置いてけぼりに出来た。
 …汚くて馬鹿だらけのこの過去で、私の心はずっと未来にあったような気がする」
「……あゆさん」
「…未来に来た当初は、あの教師共に騙されたと思ったけど」
「……!?」
「でも、今は鷹さんと出会えたからいいの」
「……そ…そうですか…」
「あなたも、未来で出会えた人が大事なんでしょう?」
「……はい」
「じゃあ、早く帰らないとね。」
「……私でさえうんざりしてるんだもの、こんな世界の繰り返し。
 何度も繰り返してるあなたたちなら猶更早く、元の世界に帰りたいでしょう?」
「……」


ここはネバーエンドだ。
ずっと同じ『可能性』を試し続けたら、大人になれない。

読み終わった本の同じページを繰り返し読んで、納得いかない部分には独白に空想を書き込んで…そんなことをしても、可哀想な犯人は救われないし、死んだ者は蘇らない。
あたしの頭の中、そしてその書き込んだ一冊だけで、登場人物の運命が変わるだけだ。

…それでさえ、書いた作者本人じゃないんだから……唯一の読者であるあたし自身さえ誤魔化せなくなったら、書き込みはその一冊でさえ、物語と連続しなくなる。
ただの落書きになる。


……それでも、ずっと挑み続けたら、何か別の扉が開けるんじゃないかと思うのはただの願望だろうか。


…1周目であたしたちが要さん達と接触し、2周目で安居くんが茂さんに席を譲り、3周目で源五郎くんが動物達を救い、4周目で卯浪先生が立場を変え、5周目で小瑠璃さんが頑張って、お蔭で皆一旦外に出られて…結果的に、8人が未来に行けたことには、……今、6周目で何かを変えようとしていることには、本当に何の意味もないんだろうか。


様々な変化をもう少しだけ見届けたいと思うことは、傲慢で、自分勝手なんだろうか。






「……前々から思っていたんだけど、どうしてあなたは蝉丸さんといつも一緒に居るの?」
「……落ち着くんです、多分。それと、絡み方はちょっとアホな方法ですけど」
「そうね、馬鹿っぽいわね」
「…それでも、あたしのことを気にかけてくれてるのかな、って思うんです」
「……理解できないわ」


 それは、あゆさんだから。

 ……あゆさんが話しかけたなら、どんな男子も喜ぶだろうけど、あたしはそうじゃなかった。

 バレンタインのチョコだって、弟にしかあげたことがない。

 誰かに好意や関心を寄せることが相手の不快感に繋がるような気さえしていた。
 年々あたしは不器用で、愚図で、内気で、人好きのしない性格になっていって…だから、無理やりにでも接点を持ってくれる手はありがたかった。

 あたしが無害そうで弱そうだから一緒に逃げようと言ってくれた嵐くんも。

 あたしと茂くんが似てるからと世話を焼いてくれた時の安居くんも。

 あたしがトロいからやたらめったら弄ってきた時の蝉丸さんも。


 わだかまりは多少あったけど、それでも、ありがたかった。

 蝉丸さん。

 一番初めに未来で見た男の子。
 花さんの手紙のこと、誤魔化してくれた時とか。
 昔いじめられっ子で、だからあんな風になったとか。
 幻覚の世界に入る前、目覚めた後の縋るような声とか。
 ……あの洞窟の中で、一緒に方舟前の扉を突破した時とか。
 緊張してひきつって、それでも自分を奮い立たせる為に笑う癖とか。
 怖い時手を引っ張って、時には後ろから背中を押してくれる両手とか。 

 そういうのがつもりつもって、初めの頃とは全く違う存在に蝉丸さんはなっていた。

 気が付いたらあたしは、キスされても嫌じゃなくなってた。





「あたし、ひばりちゃんが苦手なんです。いつも、いろんな手で自分の言い分を通して、ツンケンしてて」
「だろうと思ったわ」
「……あゆさんのことも、苦手でした。すらっとして、さらっとしてて、言い方が直球気味で」
「誤解を招く言い方をするよりはましじゃないの」
「……そうですね。あたしはずっと、相手に判断の責任を押し付けるような、曖昧な言い方しかできませんでした。…だけど、判断に失敗しても、どっちも悪くないって言えるような、曖昧な言い方も同時に求めていたんです……弱いんです、あたしは」
「…処世術を使ってるともいえると思うけど?……人なんて、皆どうせ弱いでしょ。
 みんな何らかの自分なりの方法でそれを隠してるだけよ」
「鷹さんも、自分の弱さを自覚してた」

 あゆさんは手元の草を見やる。

「……弱いのは、仕方がないわ。弱さを乗り越えようとする強さがあればむしろ綺麗。
 無知でも学ぶ気概があればいい。
 鈍感でも、失敗した時これから気を付けようとしているなら構わないわ。
 いざとなったら開き直って、自分の居る下層に他人を引きずり落とそうとする馬鹿が私は嫌いなの。
 ひたすら他人に依存することしかできない馬鹿も嫌い。……以前の、最終試験の時……
 命乞いするあいつが死んでも罪悪感なんて湧かなかった。……ナツさん。
 醜悪さは、未来の世界に不必要だと思わない?」

 以前のあたしは、ダメダメな自分が嫌で消えてしまいたかった。
 同時に、明日学校が消えるか……

「……あたしは、ずっと夜のままならいいと思ってました。学校が嫌いでした。
 自分に自信が持てなくて、学校も、自分と合わない人に笑われに行く場所でしかなかったんです。……そんなの、甘えと思うでしょうけど」
「……苦手な相手とは無理にかかわることないんじゃないの。適当に流してればいいのよそんなもの」

 あゆさんは綺麗に笑う。

「私も未来の記憶がある安居くんとは話したくないし」
「……」

 その安居くんが未来の食べ物できっかけを作ってくれたおかげで、あたしがあゆさんと話せるようになったってことを、いつか言えれば…と思ったけど、未だにそれは難しそうだ。
一周目ではつい未来の安居くんについて示唆するようなことを子ども達に教えて、以降の源五郎くん達にも伝えはしたけど…こと、あゆさんについては、伝える技術が余程うまくなるか、他の契機でもない限り無理だろう。

 だんまりになるあたしを気にせずあゆさんは話し続ける。
……実利的な所に、なんとなく未来の安居くんを思い出す。

「…あなたも、角又さんみたいに受け流すのがうまい人を観察してみたら?
 それか、花さんみたいにはっきり嫌味を打ち返せる人を観察して、真似てみたらいいんじゃない」
「うう…む、無理です…」
「……無理強いはしないけど…選択肢の一つとして、練習してみたらいいんじゃない」
「は…はい」




「……友達が死んだら、その死を背負って強くなれるだろう?
  自分の抱える夢や、何があっても貫き通す使命が自分一人のものじゃなくなるんだから」

「僕も、今は両親の死や、心半ばで命途絶えた研究者、出資者の人々の想いを背負ってここに居るんだ。子供達も、全員の身体は送れないから、せめて、命は受け継いで行けるように、循環させている」

「……命……あなたにとって、それは、志…心と同義なのかしら」

「……そうだね。そうとも言えるかもしれない」

「皆が未来で幸せになれるよう、僕は最善の手を尽くしてきた。全ての文明が滅んだ世界でも…
 …楽園に来たと思えるように、あの子たちを育ててきたんだ」

「…楽園に行くと思っていたわ。他の子たちが得られない権利を得て」

 未来さえ楽園なんかじゃなかった、楽園なんかどこにもなかった、と言外にあゆは語っていた。

「ある意味、未来に夢を抱いたまま死ねた人達は幸せだったのかもしれないわね」

 疑問を抱いて生き続け、壊れていくことと、どちらが果たして。

「……楽園、か」

 角又は目を覆い嘆息する。

「あんたらにとっての未来…蠱毒の生き物にとっての外みたいなもんやろな」
「蠱毒?」

「ひとところに蛙や蛇や蠍や毒虫…色々な命をまとめて壺に入れ、長期間喰らい合わせるんや。
 共食いで生き残った一匹は強くなっとるから…古代中国ではそいつを使うて憎い相手にけしかけるなり呪うなりしたらしい。使われた命にとってはいい迷惑やな」

「……なんで、自分を閉じ込めた張本人を殺さないのかしら」

「生まれた時からずっとそこに居ったら、毎日苦しゅうて苦しゅうて、殺して殺して、恨みの対象なんてどうでもよくなってしまうんと違うか」

「……殺した相手のことは、覚えているのかしら」
「共食いばっかりしとったら、個体に別の個体の力が引き継がれるとも言うし…覚えとるやろな。ただ、その度が過ぎたら自分を個体として認識できなくなって、自分以外を個体として認識するのも難しくなるのかもしれん」
「…情けないわね」
「そう言うなて。
 …ゲームでも、仲間が先に死んでいったら命を引き継ぐ…っていうやつがあるけど…
 リアルに出来てしまったら自我が怪しくなりそうやな。
 そうすることで、死を乗り越えたり、次に進む力になるならええと思うけど」

「理可子さんの作った糸を俺らが引き継いだように…
 あの人達の遺した子ども達を、俺らが外に出せたように」







あゆ「……当番じゃないけど、一応未来での訓練の為にも、私の保身の為にも、毒草は取り除いておかないといけないでしょう」
桃太「……」

安居「あゆ、また毒草取り除いてたのか」
桃太「ひっ」
安居「あ、すみませんびっくりさせちゃって」
あゆ「安居くん…何の用?」

安居「これ、代わりの山菜。材木集めてたら巻き付いてたから取ってきた」
あゆ「…ふうん…むかごもある」
安居「少しずつ集めるの好きだし」
あゆ「…そうね…あなたは、そう…だったわね」
安居「?」
桃太(……)

桃太「もう少し、見て行ってもいい?」
あゆ「どうぞ」
安居「ああ」

安居(あゆは新入りの先生達とは普通に話せるのかな)

桃太(つくづく)
桃太(白髪じゃない白頭……いや、安居って、新鮮だな)
桃太(今までの周のあゆさんも、夏Aの他の人達もだけど……皆、別人みたいだ)




「ったく、砂漠かここは!!」
「冬の畑は砂嵐が起きやすいのよね……もっと土壌改良しないと」
「れんげとかがいいんだっけ?」

 蝉丸さんとあゆさん、まつりちゃんが作物について話している。

 いいなあ。

 ……ううん。

 いいなあ、で終わるんじゃなくて、あたしも、参加しないと。



おとぎ話で言う呪い、茨の森、意地悪な家族。
それがあゆさんにとっての過去だ。
未来はまさしく彼女にとってのハッピーエンドだったんだろう。




「あゆさんは、あんまりこの世界に未練がないと言ってました」

新巻さんは少し寂しそうに言う。
新巻さんにとって、元のままの、それも生きている姿でかつての仲間に出会えることはそれだけで素晴らしいんだろう。
そんな新巻さんを一目見て、お蘭さんは睫毛を伏せる。

「…彼女の状況じゃ、分からなくもないけどね」
「……俺達だって、そうであるべきだ。違うか」

秋ヲさんは木の机をぽんと叩く。どこかその仕草は、海外小説で裁判長が木槌を振るう様を彷彿とさせる。

「温室みたいに、時の流れ、時節に逆らってぐるぐるぐるぐる。
 冒険は終わった、ゴールは過ぎた、あいつらの試験もひとまず終わってた。
 終わったのはこの世界も同じ。ずっと同じ場所ばっかりまわってて、何になる?
 澱んで腐るばっかりじゃねぇのか」
「……それでも、……知りたいのかも、しれません」
「俺達に一番できるのは知ることぐらいだしな……こんな機会でもなきゃ、知れなかったことがあったし。元の世界にこの記憶をもってければいいんだがな」

嵐くんは目を伏せて、蝉丸さんは顎をさすりながら言う。……本当にそうだ。
喩え時が巻き戻っても、夏Aの皆の記憶が消えていても、誰の命をも救えないとしても、こうして覚えていることに何か意味があると思いたい。

「……今、力になって、そして、元に戻った時も力になる。それが、どこまで出来るのか、知りたいんです……わわっ」
「生意気な」
蝉丸さんに髪をぐしゃぐしゃとされた。

「……でも、ま、やれることはやってみようぜ」
「……忘れないでよ、あたしたちが元の世界に戻るのが最優先事項なんだからね」
「へいへい」

くしゃくしゃになった前髪の奥、あたしは少しだけ笑った。

…『そうすれば、認めてもらえるでしょうか』という言葉は喉の奥で飲み込まれたままだった。







あたしは傲慢な主人公が嫌いだ。

猫を殺せる主人公が嫌いだ。

すらっと何の悩みもなく、さらっと邪魔な存在を切り捨てられる強さが怖い。

自分がその切り捨てられる存在と同等だからかもしれない。


だけど、悩み苦しんで絶望する脆い主人公は自己嫌悪を誘発して読んでいられない。
特に絶望して終わってしまう物語、悩みを抱えた苦しんで一歩進んでは二歩下がるような物語が苦手だ。

それでも、そんな状況で立ち上がる主人公は、好きだ。

勿論、その成果が成功なら言うことはない。
だけど、そんな状況を耐え抜く主人公にも、時には癒され、力づけられる。

小さな体、弱い立場、低い権威、少ない財産、自信のない能力、人好きのしない性格……それでも知恵や気付きや丹念で丁寧な繰り返しによってなにかを成し遂げる主人公。
あたしはそんな主人公達が大好きだ。



……ああ、けど、だけれど、彼らは、彼女らは、それらは、あたしを置いていった。


あたしは本を読み終えたら、あれだけ感情移入した主人公の皮を強制的に剥がされる。

そして気付く、あの主人公は前に進んだのに、あたしは心だけが前に進んで、現実の体も立場も何一つ動いていないと。



だから貪るように次の本を求めた。
そして疲れたら泥のように眠った。

極度の疲労の中では、ナッツの温もりだけが感じられた。






「……今、思い返すと……
 私がいじめられている状況とあの毒の木とか、襲ってきた馬鹿とか……全部先生は知っていて、仕組んでいたのかもしれないわ」



*******


・7人になる

・六周目終了






・七周目開始

・茜or流星視点
・睦月復活

・くりくり同盟に入れられる

・鷭周
・逃げ出させる提案に乗る鷭だったが、結局外の世界では17歳までさえ生きられないかもしれないと分かる
・丁度皆が絶望したところで迎えに来る要先輩(※毎日ひそかに見守ってた)
・最終試験前の死人は飛躍的に減る

*******


*6 梨本茜視点






柳「……あのなぁ、何でもできるわけじゃねーんだぞ自衛隊ってのは。
  それこそ子供達を囮にしたほうがよっぽど効率的じゃねえか」

花「アンタまだそんなことを…!」

柳「悪い話じゃねえ。作戦もある…囮っていっても、あの時みたいにすぐ死ぬと決まってるわけじゃねえ」
柳「権力も身分も、…それどころか戸籍もねえんだ、こっちの強みは人数が多いぐらいなんだから、活用すべきだ。違うか?」

ひばり「…いいけど」
ちさ「ひばりちゃん!?」
ひばり「後であんたたちが助けに来る保証があるんでしょ?……来なかったら本当に承知しないから」
桃太「ひばりちゃん…」
ひばり「何感心してんのよ、桃太、螢ちゃん、あんたらも来んのよ」
桃太「僕!?」
螢「……喜んで!」

蘭「……アンタも、変わったじゃない」
ひばり「…別に。変な事言わないでくれる」







「……僕達もある意味共犯だったのかもしれない」

「途中まで流されたり見逃していたのに…それなのに」

「……あの時、安居くんだけの罪があった時、全ての責任を押し付けた」
「鷭ちゃん先生は悪くない」
「そうや、悪くない!……あいつらが」

「……責任…」

「秋の村の奴らも、リーダーの奴らの方がおかしかったよな」
「蝉丸」

「安居といい、百舌のおっさんといい、あいつらといい、責任負うと皆、普通じゃできねえことをやれるようになるってことなのかね」

「……でもさ。逆らった時点でお前らは、「責任」を負ったんだよな」

「自分で判断して、自分で要るものと要らないものを区別して、自給自足で生活し始めた」




「守ること、命を助けることって、相手の責任ごと背負うことなんでしょうか」
「…安居くんは、基本的に仲間を外から守り切ろうとしますよね」

「……守ることに依存してる、ともいえるかもしれないけどね。…巨船の中で、ナツは登れない、って言ってたのは……心配と、落ちることへの恐怖が勿論大半を占めるだろうけど、俺には守ることで自分を安定させてるようにも見えた」
「……あいつと一緒に歩くことは、一緒に罪を被ることで…
 あいつの仲間としてあいつの暴力を黙認することは、共犯になることに近いなら…
 涼だってそうだったけど……そこから逃れるのは正解に限りなく近いと思うけど?ナツ」
「あたしは…あたしは、そういうつもりじゃ……」
「…個人として、成長したかったんでしょう」
「…牡丹さん…!」
「……夏Aが安居くんや涼くん、そして百舌と離れたのは…
 使命感を残して、『個人』で判断する為に必要だった気もするわ」
「だからといって、安居くん達が不要とか、そういうわけじゃなくて」
「”対等”に接する為に必要なステップだったんじゃないかってこと」

「一歩踏み出したから…、責任を負いきれないものを、安居くんたちがまとめて背負うことになったらしいけど」
「一歩踏み出したから、安居くん達も、卒業っていう…産道の外に出るきっかけになったんじゃない」

「今はまだ皆、純粋過ぎるほどに純粋だけど…」
「人生はまだまだ続くんだから、いくらでも、どんな色にでも染まれるわ」

「『温室育ちは何にだってなれる』だったかしら」
「!」
「ごめんね、こっそり聴いてたの」






何で繰り返しなんてものに巻き込まれないとあかんの。

うちらはずっと、あのどうしようもない世界で頑張ってきたのに。

……繰り返して、何年経つ?1年弱、7年、7年、7年、7年、7年…そんで今回で5年目!もう、40年が過ぎた。

新ちゃんは、今頃おばさんになって、子ども組の誰かか、外国の誰かか、他の人の子どもか、方舟の子たちか…誰か分からんけど…その子達と結婚して、くるみは孫を抱いて、角又さんだって目を覚ました億人君と再会して、理可子さんの遺志を継いで…

そうやって未来に進めた筈やのに、どうしてこんなことに付き合わんとあかんの。

7年ごとにあたし達は年を巻き戻され…
角又さんは再会できず…
新ちゃんは、成長しても、体だけでなく、心も巻き戻され…以前とは別の性格を持って育っていく。

こんなの、おかしいやろ。
戻りたいならあいつらだけが戻ってればええのに。

うちらは今日と明日があればええのに、どうして昨日を延々と繰り返さんといかんの。


未来へ行きたい。
未来へ帰りたい。
うちらの居るべき場所は、ここやない。
うちらの安らげる場所は、ここやない。


狂ったように今日も、うちの脳内で喚き声が響く。


今日もうちは奴らと話せへん。


何が殺意や、何がやり直しや。

うちかて心の中で散々奴らとの殺意と闘っとるわ。


巻貝を全部壊して、うちらに押し付けられたここの記憶なんて全部消してしまえたらええのに。






施設から逃げ出した子ども達は、はじめ外の世界を楽しんでいた。
ここは自由だ。

怒る卯浪も居ない、問題を投げかけて来る先生も居ない、殺される心配もない、毎日のノルマもない。

自給自足については幼少時から少しずつ慣らしていたから、多少の不安を抱えつつも敢行することができた。


だが彼らには戸籍がなかった。
人権がなかった。
金銭がなかった。
人脈がなかった。
保証がなかった。

未来に行けば無意味になっているであろう、あらゆる権利を持っていなかった。

それがどういう意味を持つのか、彼らが知るのはもう少し先の話になる。





「……ヒロズキンバエ…」
「この蛆は、……医療によく…使われます」

「……新ちゃんは…大丈夫…です」

麻痺が解けた。

動けば動くほど、感覚が戻ってきて、食い込んで痛みが迸る。
麻酔の意味がなくなっていく。

痛いってことは体の危険信号で、もう動くなとか、もう生きてるのさえギリギリやとか、そういうことを伝えようとしてるわけで…

それでも、くるみをうちは守らんと。

「……くるみが、くるみが…!」


もう、あかん。

無理や。





……どんな想いも、身体がついていかなくちゃ、未来に繋がらない。


「帰ろうよ、安居」
「…茂」
「少なくとも…戻れば、僕達、17歳までは生きられるんだよね…
 要さんのメッセージによれば。
 …同じように山の中を這いずるにしても…
 こんな風に、「シャカイ」っていうわけのわかんないものに追い詰められることはない」
「やめろ」
「僕なら、大丈夫だから」
「やめてくれ」
「安居は、こんな世界置いて、未来に行くべきだ」
「でも、未来に行くには、削るんだ、沢山沢山削んなくちゃいけないんだ」
「それでも安居は前に進んで、その時居る仲間で何が出来るか考えて、沢山の人を助けた、って聞いたよ」
「その人の中にお前は居ないだろ」
「……それでも、こんな、夢も希望もない所で、滅亡まで生きてるより…ずっと、そっちの方が…」
「いいわけないだろ!……お前らの、お前の為に、俺は」
「安居。
 安居が一人で抱え込んで、苦しむことないよ」
「俺はそういうつもりで頑張ってきたんじゃない!」
「でも……どうするの。安居は夢があったから走ってこれた、僕は前へ真っ直ぐ進む安居が前に居たからここまでこれた。……安居、この生活をもっと続けてたら、もっと、生きてる意味が……ここまで逃げた意味が、分からなくなると思う」
「……」
「安居、帰ろう」


信じられる相手がなくなった。

居られる場所がなくなった。

やりたいことがなくなった。


生きる為に生きている。

それは果たして正解なのか。

「……要先輩に、ききたいんだ。」

「これは、大丈夫なのか、って」

「教えてほしいんだ」

「要先輩が、大丈夫だよ安居、頑張れ、って言いに来るのをずっと待ってるんだ」


*******


・ただしやっぱり7人になる

・七周目終了






・八周目開始

・苅田視点

・虹子
・虹子と涼どちらもクール過ぎてどっちが巻き戻っているのか判別できない
・お蘭さんあたりが気付く

・or虹子との絡みが薄くなった涼が茂いじめ・花いじめをし始め、原因解明しようとしてる内にばれる

・逃亡三回目?

*******


*7 苅田葉月視点


「……ハァ…私を巻き込まないでほしいんだけど」

「…まあいい……今は少しだけ気分がいいから、本当に少しだけなら、我慢できるよ。
 …それで、何を私は手伝えばいい?」






巻き込まれた時の状況、見たものはそれぞれ違うようで、虹子さんは巻貝を見たと言っていた。




「よろしくお願いします」

立場が変われば対応も変わるものだ。

俺はそれを、特にこいつ……安居とのやりとりで実感していた。

はじめ、安居に記憶があった頃は、「よりにもよってお前か」と宣う安居を火の教官補佐として、散々投げたものだったが。




「『そんなことないよ』って、ラスボス戦で薬草使うみたいなもんだよな」
「意味がよく分からないんですが…」
「俺はお前のことを大事に想ってるからんなこと気にしねえだとか、んなことどうでもいい、誰も気にしねえだとか、どう答えたらいいか分かんねえから適当に濁しとけだとか、取り敢えずこれ言ってりゃなんとかなるだろとか、…てめえの話、それ以上聞かねえからとか、そういうニュアンスだよなあって」
「考えすぎじゃないですか…?」
「……まあ、でも、そうやって、水面下で疑ってきたんだよ、俺は」
「夏Aはそういうの、あんまり必要ないんだな」
「……そんなことばかり気にしてたら、生きてけないから…でしょうね」
「………ああ。あいつらの作戦は、効率的で、攻めの姿勢なんだろうな。【ガンガンいこうぜ】…いや、これじゃまだ安全じゃねえな、【めいれいさせろ】ってとこか…?」
「…」
「ああ、でも【にじこ】は、その分で行くと【いのちだいじに】だな」




「大人数では逃げ切れなかった…逃げても、逃げ場がなかった…当然の結末だね」
「……社会に追い立てられる?」
「…コネが今の時代では通用しない?」
「親族に認識されなかった?」
「要さんに盾突いた以上、表だって何かの仕事には就けない?」
「だけど黙って死ぬのを見ていられない?」

「……なら、一つだけ提案がある」
「私達同様『秘密裏』に進められてる物事の人足に、あなたたちが立候補すること」
「角又さんの奥さんのやり方と、逆の立場かな」
「……そして、処分される予定の子達の中でも、惜しいって言われてる子達を助手として推薦するんだ。…例えば、食糧や資源作りとか…坑道を掘るとか……そういう金の掛かることを、命と食べ物だけで贖えると提案すれば、チャンスくらいにはなると思う」

「……賭けは性に合わない、だから私は行かない。恐ろしくやばい気がするから」

「でもあんたらなら死んでもやり直せるのかもしれない…やってみれば?」

「どうせ今失敗しても延々と似たことを繰り返すだけだろうし…
 可能性があるなら、何でも試してみればいいんじゃない」


「外の世界での自由を得て、代わりに、外の世界の不自由に縛られて、それでもやっていけるのなら」


多くの人との接点を捨て、代わりに自由に動いてきた虹子さんは、もう俺達を見ていなかった。


「私は関係ないけど」





あの人達はもう居ない。

ぱちぱちと灼けていくバーベキューの肉、野菜、魚介類。
下で踊る炎を眺めながら虹子は嘆息する。

どうして皆して、外に憧れるんだろう。
外の世界はそんなに素敵なんだろうか。
どうせ未来にはなくなるのに。
自分達とは何の繋がりもないのに。
…ああ、危険と隣り合わせのスリルの為もあるか。

「…」

巻貝の中身が煮えたのを確認し、手作りの菜箸で皿に移す。
ほふほふと最低限熱を冷ましながら食べる。

『魔除け』

旨味と肉汁と、巻貝の形が呼び起こす想い出。
虹子の目は、過去に飛ぶ。

誰かと居た後に一人になると、空いた隙間に無為な想いが割り込んでくる。
涼が小瑠璃ちゃんと先生達の居る廃船に乗り込んだのもこんな寒い夜だった。
今頃あの人達はどうしているのだろうか。
あの時のような助けは、もう要らないのだろうか。


…骸骨の行進は、もうないのだろうか。

……狼煙を上げる相手も、理由も、もうないのか。





「……ねえ、外と連絡うまく取れるなら、今の内にシェルターの弱点とか伝えとくのはどうかな」
「流星……そんなの、信じてもらえると思う?」
「……お蘭さんも言ってましたよね、シェルターを造る側で携わりたかった、って。お蘭さんの知識や経験があれば、ある程度理の通った形で説得出来るんじゃないですか?」
「……シェルターの滅んだ原因ではっきりしてるのは龍宮ぐらいでしょ?あとはあなた達の見付けた巨船だっけ?」
「まつりちゃん、安居くんや涼くんと回ったシェルターに何か手がかりとかなかった?」
「うーんとねえ…」
「……その新しい情報が、また何かトラブルの元にならないといいデスけど」
「ならないよきっと」



*******

・7人になる

・八周目終了











・九周目開始

・蝉視点
・熊川さん復活

・涼
・途中まで通常通り少し楽しんでいるかのようにさえ振る舞う
・夏A施設組に対しては下手に悟られないようにツンツンするが、未来での親しみが抜け切れていない為微妙にフレンドリーに接してこられ変なツンデレみたいになる涼
・混合組に対してはつっけんどん微ヤンデル通常運転
・元気幼馴染小瑠璃・元カノ虹子・未来から来たまつり ・同担拒否対象安居 の間でいちご100%状態になる涼
・茂虐めが割とソフト
・以前のようにうさぎの的撃つことに躊躇し、人の的を撃てない(そして自分が撃つと疑問符を浮かべる)安居にほくそえむ涼
・微笑ましい

*******



*8 麻井蝉丸視点


涼「安居と並べると思ったのはお前だけだった。だからお前を殺そうとしたんだろうな」
花「……は?」
まつり「涼くん!涼くん、さっき毒きのこ食べてたから!!ちょっと混乱してるんだと思う!!」

嵐「…………」
蝉「………」
ナツ「………花さん」

花「…うん?」

ナツ「涼くんは、こう…なんていうか…え、えっと……」

花「…な、ナッちゃん、ムリしてフォローしなくていいよ。大丈夫、別にあたしは今涼や安居に対していらついてないし…そんな、怖くもないし……わけわかんないな相変わらずとは思ってるけど…」


*******

・卯浪を代わりにぶん殴り代わりに赤い部屋に入れろよと言い出す涼


・出てきた時安居が歪んだ理由をなんとなく把握する涼


・安居にライバルとして心配される涼
・誰のためにこうなってると思ってる状態の涼
・洞窟でやったように安居をこづく涼
・喧嘩に発展する二人
・平和

・目付きが周囲の子供たちと違う涼に対し貴士先生のラスボス度がアップを始める
・貴士先生に対し本気で立ち向かう涼
・こてんぱんにのされる涼

*******



*8 麻井蝉丸視点

「涼ちん混じろうぜ!」
「結構だ」

 めそめそと泣くふりをする俺を無視して涼ちん涼様もとい涼は嵐とナツに問いかける。

「……安居の時は、こういうことを余りしなかったのか?あいつの時も確か、ずっと施設の中に居たんだろお前ら」
「…提案はしたけど、あまり乗ってこなかったな」
「もうみんな一度死んでて、自分だけやり直せてるのに無為に遊ぶ事はできないって言われました」

「……馬鹿だな、安居」

「本当に馬鹿だ」

「だが…」

「見放せない馬鹿だ」




 今の安居はここに居る涼を縛れない。
 未来の安居こそが未来の涼を縛る。

 未来の世界で生きる涼は、同じく未来の世界で生きる安居を支える。
 未来での安居の歩みを阻み、傷を付けるもの全てを排除し、存在を脅かすものを否定する。

 未来の安居を脅かすもの。
 今現在ここに居る、心身に瑕疵のない安居でさえも、その『もの』に含まれる。

 あの最終試験を越え、未来の絶望を越えて、涼の求めるものは不可逆的に変化していた。

 教師達の泥に塗れながらも、狂気と紙一重な希望の光を抱いたあの目、あの腕、あの脚、あの鼓動こそが、今の涼を狂おしいほどに駆り立てる。


 安居から受け取った爛々と輝く命の灯が、涼の心に燃え広がる。



「安居は悪人にはなれないと思ってた」
「頭はまあ切れる」
「腕力もある方だな」
「だが狡さが足りない」
「もっと言うなら、他人を犠牲にしても正気で居られる力が圧倒的に足りないんだ」

「だが、あいつは」

「正気の方を手放しちまった」






「……なるほどな、まあそういうキャラだよな、安居は」
「だけど俺が…一番、『そういう』キャラだろ?」
「涼!?」
「…涼くん!?」

小瑠璃と安居を押しのけて涼が卯浪をぶん殴った。





「……マジかよ…涼サマ…」

監視カメラの画面中では涼の暴走が見事に映し出されていた。
蝉丸は顎をさすりながら、好機とばかり涼にボコボコにされていく卯浪の顔を見やる。
あれは骨が何本か逝ってる。



「えっ涼!?」

「当事者の小瑠璃、安居だけでなく百舌のおっさんまでそう言っちゃまずいだろ」
「いかにも仕組んだ側らしい失敗だな」

監視カメラ室で、普段監視する側の人達を揶揄するのは俺らにとって新鮮な経験だった。


……一応、事前に涼様から事情は聞いてた。…つーか、安居が変わった切欠について思い当たること、これまでのタイムスリップで見てきたことを洗いざらい吐かされて、そん時、『俺はこうするから邪魔するなよ』と脅し半分で言いつけられた。

「もし先生達にばれたら先生皆殺しとかしそう」
「……あいつ、もう先生達を人間扱いしてねえからなあ…」
「強いて言うなら悪魔扱いかもね。容赦ないよね」
「情報源じゃなくなったらボク達も邪魔者扱いされそうデス」
「うちら皆殺しも有り得そうで怖いわ」
「いや、流石にそれはねえだろうよ…まつりが止めるだろうし」
「いや…あいつ、自分がやったってばれないように一人ひとり…」
「……涼くんは…そんなこと…しないもん…」
「……そ、そうですよ…」





『…』


『安居……』

『……俺も…持ち帰る』




『……悪いな、お前ら』





赤い部屋から出てきた涼は、先生達にひたすらの敵意を向けていた。

「……ハッ、これを、安居に、見せたのか…」

「………なるほどこれは確かに、『殺してやる』だな」

足元が崩れそうな、今まで地面と認識していたものが全て端から欠けていくような感覚に涼は手を握って堪えた。
中にあるものを洗ってやらねばならない。

「未来で俺が結局人を殺せず、安居が人を殺してしまった理由がやっと分かったよ」
「『最終試験で人が死ぬのを知ってるか知らないかで大違い』なんて笑って」
「『俺はいつか人を殺すんだろうか』…なんて手を震わせて」
「本当の大違いは、安居の見たものじゃねえか」

「要さん。…本当にあんたを、恨むぜ」

「でも、感謝もしてる」
「……これで、俺も甘さを消せたからな」

「どうせなら一周目を踏襲していこうか」

「俺達は相方で、同類だからな」





「…涼、顔色悪くないか、大丈夫か」
「何がだ。大丈夫だ」

 昔よりも棘のある態度なのに、どこか親しみやすい涼に安居が話しかける。
 涼はそれにぶっきらぼうに返したが、直後、どこかで聞いた会話を繰り返したような気がして舌打ちをした。

「…本当にごめん、俺の代わりに…」

 涼は安居をぶん殴った。

「…ってえな!!」
「俺がやりたくてやったんだ。…誰の為とかそういうわけじゃねえ。だからそういうこと言うな」
「だからって殴るか普通!?」
「うるせえやんのか」
「やってやるよ!こっちだって鍛えてんだよ!」
「…フン、おとなしくくらっときゃいいのによ」

 そうして殴り合う二人は逆さ吊りにされながら朝焼けを見ることになったのだった。



一緒に罰を受けてる最中、涼は幾度となく唇を震わせた。

今の綺麗な安居を守ってやりたい。
踏み躙ってやりたい。
正解を教えてやりたい。
揶揄ってやりたい。
言うことをきいてやりたい。
ぐちゃぐちゃにしてやりたい。
表面張力のような常に張り詰めた目をじっと見てやりたい。
臨界点ぎりぎりを越えるまで。


だが、安居は、涼の話をききはしないだろうと涼は判断する。
過去の涼より鈍い安居のことだ、涼が未来から来たとか、不自然な様子なんて涼に言われなければ気付かないだろう。

それでも、はじめの一瞬だけなら、あの好戦的な目が未来での安居のように丸くなり、無条件で聞き入る姿勢になるかもしれない。

それはそれで見てみたいと涼は想う。



何度となく呪った。

貴士のように、消えない呪いのような憎悪を植え付けた奴らを呪った。

安居は特に貴士を。
涼は……特に要を。

どうしようもない悪魔だと思った。

だが、育ってから見てみれば、幼い、まだ育てられる前の自分達のなんと未熟なことか。
まぎれもなく、そこから未来で生き延び人を導けるまでに成長出来たのは、悪魔のお蔭でもあったのだ。




***
「その覚悟があれば、君は未来に行けるだろう」

むろんそんなおだてに乗る涼ではない。

「そーいうのを信用できるほど、もうピュアじゃないんでな」

「少ない犠牲で最高の効果を出したいんだよな、あんたらは……
 この犠牲があんたらでも別に構わねえな」

持っているほど失うのなら、最初から何も持たなければいい。
与えられなければ、失うこともない。

そうすれば後は、奪うだけだ。

色々なものを削り取られ、結果、奪う側になった安居のように。



かつての自分と似た存在を赦せなくなった安居。

涼は安居の暴走を止めたかった。

暴力を振るうことで、身を守ろうとするその姿が痛々しかった。

そんなことをしなくても、安居はこの世界に存在していていいのに。
はなから赦されているのに。

自分を削り落とした残りまでも卑下したら、骨になってしまう。

だから涼は、涼だけはせめて、残った安居を肯定する。

削られ落ちた安居のかけらがまた、戻って来るまで、まがいものの被膜、先生達の皮でさえも、安居が選んで身に着けたものならば肯定する。

涼はその為に、安居に世界を用意する。安居のことを傷付けるもの、否定するものは全て排除した世界を。

安居を苦しめない世界を。

安居はこれまで十分に悩み、傷付き、自分を傷付けてきた。
安居は赦されなければならない。

安居の弱さを、涼こそが、補わなければならない。




今の安居は、未来の安居よりも青く小さく、しかし強い。

この後、毎晩茂の夢を見て、深夜徘徊するなんて考えられないくらいに、その目は希望に輝いて正義感に燃えている。

涼は、未来で、そんなに苦しく辛いなら過去など捨ててしまえと思っていた。
過去の、本当に幸せだった頃のことだけ覚えて、あの試験の夜などショックついでに忘れてしまえば、もう自傷する必要などなくなると思っていた。

責任感も、罪悪感も、全て捨てることでかつてのように笑えるようになるというのなら、それを見たかった。
新しく出会った人々皆に、安居はかつてこうして笑えていたのだと、見せつけてやりたかった。

だが、その想いはかなわぬまま、涼は折れることとなった。

『もう なれない』

あの言葉を思い出して、涼は微笑む。
捨てられないのもまた、涼のついていきたい安居だ。








 裁きと救いは表裏一体であり、神の特権だ。

 涼は縛られない。

 自身と対等であれる存在が現れるまで。

 それはむろん未来に行くことの出来ない先生達でも貴士でも要ではない。
 一緒に未来に行くであろう仲間たちでも、まだ足りない。
 未来で出会う他のチームの人々とは全ての前提が異なる。

 だが、自身と対等である存在ならば、その存在は、目線で、一声で……涼以外に伸ばされた腕でさえ、涼を縛る。
 なのに目はいつも別のところを見ている。
 ひたむきにまっすぐに守るべきものを、見張るべきものを、敵対すべきものを見ている。
 涼がそいつを誠実に病的に守り、甘やかし、絶対的な味方をすることは、ただの自己満足なのだ。

 だからこそ、他の存在が要ることを涼は知っている。 
 あの澄み切った、何もかもを照らし出すような光に涼が見張られ、影を造って対となる為の何かが要る。


◇◇◇

 ひどく重苦しい、けれどどうしようもなく重大な十字架を誰かが背負っている。

 涼はその馬鹿の細かい後始末をしてやり、その頭に油をかけてやり、顔を拭ってやる。
 けれど涼は、その馬鹿自身にはどう足掻いてもなれない。
 どころか、丘の上に行くことさえ止められない。


 未来に行った時、やっとこれで涼は自由になれると思った。
 だが、裁かれも救われもしない世界で涼も安居も生きていかれず、結局十字架が新たな存在に変わっただけだった。
 追放され、助けに行った先で糾弾される、このざま。
 茨の王冠と杭と罵倒を本当に受けるべき存在はみな天国の門とやらの先に姿を消した。

 涼に残されたのは、目の前にある傷付ききった背中だけだった。
 全てを嘲笑うことしか涼には出来なかった。

 植え付けられた、夏Aという しゅ の本能こそが、夏Aを夏A足らしめ、そしてすべての不幸の根源となっている。なくせるはずもない。
 種。
 まさに種。
 要の皮肉は実にうまい。

 種のプログラミングこそが、その中の当たり前からずれた個々を殺す。

 だが、当たり前から外れたモノこそが。


 夏Bのように。

 巨船で洞窟に挑んだ安居、涼、夏Bのように。


 『当たり前』の生きられなかった環境で生き延びるのだ。


 なればこそ、未来で涼は安居と旅に出たかった。

 外国。
 外の、更に外の世界だ。
 そこは、歴史で学んだ村社会のようになっている混合村とは違って、『当たり前』の外がある。そこでならば安居の目は更に輝くだろう、誰かを助けられるだろう。

 だからその後ろで涼は安居を補助しなければいけない。


 安居の中に、まだきっと安居を責める声がある。
 安居は未だに自分を殺し続けている。

 昨日安居は死んだ。
 今日安居は死ぬ。
 明日もきっと安居は死ぬ。

 だが一人佇み、身を灼く光に挑む背中こそが美しい。

 隣に立つのは、その父であれ、裁判官であれ、処刑人であれ、彼を殺すものだけだ。

 それでもその目に宿る魂こそが美しい。


 安居の鏡のような目。

 いつだって心を映し、魂を剥き出しにしてきた瞳の中に……相対した時のみ見られるそこに、涼は帰らなければならない。




「……安居」
「なんだ」
「俺は人を殺さない」
「……どうした、そんな当たり前の話急に」
「だからお前も、殺すな」
「言われなくても殺せねえよ……」
「ならいい」
「……なんなんだ」


涼が茂のロープを切ったから、殊更安居は、殺さねばならないと思ったのではないかと涼は仮定していた。

無自覚でも、涼を庇う為に。涼と対等である為に。

未来で、安居をまともに引き戻したいならどうすればいいか分からなかった。
涼が間に立っても、敵対する相手を消そうとしても駄目。
茶番劇も周囲に悟られ逆効果。
そもそも覆水は盆にかえらない。

ならば。






*******

・7人になる




裏設定:

・実は一周目でヲだけ生存しており最後まで見届けている(そして原作通りの7人になる)
・死なないで、原作での最終試験終了の日(火事から一週間後)を迎えると記憶を引き継いで次の周に移動
・元の周では神隠し状態
・原作での最終試験終了より前にその周の子死亡or混合が全滅するとその周を初めからやり直し
・原作最終試験終了より前にその周の子含めて7人(以下)になっててもその周やり直し
・これらを最初は「全員が戻りたいと思ってないから戻れない」と誤解されていた

→ ・十周目・要先輩
  ・犬吹雪復活?
  ・蘭視点or角又視点
  ・幻覚認定する要先輩


*********

「平気だ、気にする必要なんか全くないって思ってれば、いつか本当にそうなると思ってた」

「…倦まず弛まず、手段を択ばずやってきた結果がこれだ」

「……俺は赦されないんだろうな」



 この世界は恐らく未練で出来ている。

 未来に行った、そして過去この時間に居る僕達は記憶だけ帰っている。
 未来に居るがこの時間には居ない人々は体と記憶共に毎回蘇っている。
 未来には居らずこの時間には居る人々は身体だけが何とか生き返る。

 だがその認識は、ここの僕達が知りうる範囲内でのことだ。

「こんなはずじゃなかったのに」

 この世界は、恐らく、僕達の未練で出来ている。
 有り得たかもしれない可能性の集合体。


「……ごめん、と、ありがとう、か」

「……言える筈もないな」




箱庭を要たちは作っていた。
けれど仕掛ける側になって思った。

ここは本当に井戸の外なのかと。

もっと他の、例えば隕石を落とし、要の両親を死なせ、要に誘拐のトラウマを植え付けた物事が、要たちの箱庭の外から伸びる手で仕組まれたのではないかと。

この世界で生まれ、生きて死ぬ要は、それでも構わない。
まがりなりにも育て上げ、感謝され、幸福を感じて消えられるのだから。

だが一つだけ疑問がある。

この世界がもし箱庭なら、神様は何を造るつもりだったんだろうという疑問。

安居の後悔が未来へ繋がる世界か。
新巻の願望が報われていく世界か。
花の心中が成長していく世界か。
ナツの考察が深められる世界か。
要の凶行が意味を成す世界か。


答えは今日も見付からない。
とうに終わった世界の空っぽな青空には、安らかな光と涼やかな風だけが満ちている。


*********

→  ・元の時代に戻る

 ・ループ終了条件:精神逆行してる人が未来へ行く

・精神・肉体逆行自体は全員一瞬で終わってる
・夢の中で何年も過ごしたつもりが数時間しか寝てなかったアレ
・ただし終わった時の精神的負担が大きいと数日寝込む
・夏Aは順繰りに、他チームは同時に精神遡行してる
・ここで改変された過去はパラレルワールドに繋がってるとかないとか

・夏Aだけは巻き戻った時の記憶を持っていない
・夏A以外がもやもやする







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最終更新日  2018.03.04 02:50:59
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