Laub🍃

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2017.09.08
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カテゴリ: .1次題
きっと、どこかで見たようなおはなし。

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魔女は奪う事しか知らなかった。
魔女は故に初めて出来た弟子にもそうして奪う事を教えた。

お師匠様は凄いと慕ってくれた弟子。
その子が何か魔女にとって不都合なことをした時も奪って力を知らしめた。
耳や腕や五感や心。
奪っている間は魔女は支配者であり崇拝されるべき存在だった。
それでも弟子は魔女を恨みさえせず後ろをてこてこと付いて来る。

可愛くて、可哀想な弟子。

そんな弟子を見降ろす時、常に魔女の目は影の中にあった。
大きな大きな黒紫の帽子、先がくるりと丸まったとんがり帽子。
魔女は代々受け継いできたそれに押しつぶされそうな毎日を過ごしていた。
それでも、それがあるから魔女は自身の威厳を保てるのだ。

魔女には他に何もなかった。

魔女はどこかいつも空虚だった。
本当は自分が作り出したいのだ。
作物も城も素敵な花達も綺麗な装いも美しい心も。
それでも魔女は自分では作れないから、奪って、借りて、自分を飾る為に使う。

弟子も同業者も、魔女の飾りばかりを美しいと言う。

夜になる度に身を洗う、その度に飾りをそぎ落とし自身の空虚さと向き合わされる。
虚ろな自分を殺したくなる。

そんな魔女を尻目に弟子はどんどん成長していく。
魔女に奪われたものを補うように。
魔女はこのところ奪ったものを返すことが怖くて仕方がなかった。

奪われても湧き出るような力が魔女は恐ろしくて、そして少し羨ましかった。
使われうることが、奪われるほどのものを持っていることが、どうしようもなく輝いてみえた。

そうして、弟子はとうとう魔女を追い抜いた。
そして直に、魔女などおそるるに足らないことに気付いた。
あこがれもじきに消化された。魔女はどうしようもなく醜いと思った。
弟子は魔女を石に変えた。
魔女は抵抗することなく、おそらく気づくこともなく固まった。

魔女の被っていた帽子を弟子は抱え上げ、しばらく見てからゴミ箱に捨てた。
そんな重みは、そんな飾りは、今の弟子には必要ないのだ。

石になった魔女は年月とともに少しずつ崩れ、弟子はそれをただ見守っている。
死んでいるのか生きているのかも分からないそれを、ときたまいたぶり削っては、新たな呪文の材料と変える。

その根底には魔女がかつて教えた呪文が根付いていた。
その残り香に、削られた魔女の破片は喜んだ。
自分が使われていることを、奪われていることを、魔女は紛れもなく喜んでいた。

弟子が魔女の年になる頃、魔女の体は跡形もなく消えた。
空白に一瞬魔女の笑い声が響いたが、弟子の開けた窓に吸い込まれて消えた。





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最終更新日  2017.12.19 07:00:55
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