Laub🍃

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2017.10.02
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カテゴリ: .1次題
何か適当な花の名前を教えてほしいと弟が言った。

丁度その時読んでいた小説のキャラクターの名前を口に出した。
凛々しく格好いい姫のキャラクターで、めったにこの国では見ない花の名前と相まってどこか不思議な憧れを抱かせる存在だった。

まさかそれが、弟のゲーム内でのネカマ用の名前として使われるなんて思ってもみなかった。

『彼女』は優しく謙虚で麗しく儚げで、弟の理想を詰め込んだような人間だった。

『彼女』がネット上で有名になり崇められるごとに弟は自分が褒められているようだと笑った。
一方で『彼女』を貶す者については容赦なく罵り、僕はそれは『彼女』の言わないことなんじゃないか、と幾度となく思った。


けれど、そのゲームに以前誘ったのは紛れもなく僕で、そうして遊びにのめりこむ弟を置いて、受験だからと離れたのも僕で。

弟と一緒にプレイしていたキャラクターも、弟のキャラクターも、どちらも眠っていて、今では花の名前のキャラクターよりもレベルも装備もだいぶ格下で。




今日も画面の向こうの相手に『彼女』として笑う弟を、僕は直視できない。

弱弱しくて、本名をかたかなにしただけのキャラクターのほうが、僕はずっと好きなのに。
緊張したあいつを導いたのも、笑顔を見せられたのも、僕だけだったのに。


僕の望む目はそんな媚びた目じゃあないのに。

僕の望む目は今日も、閉じたままだ。





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最終更新日  2018.10.14 22:58:32
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