Laub🍃

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2017.10.04
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カテゴリ: .1次題
王様は支配する事が好きでした。
目の前の相手の全て、屈服させていると思うまで安心ができませんでした。
征服した国では小さな村の赤子さえ引きずり出して奴隷とし、奴隷たちが動けなくなると切り捨てました。

王様はいつも部下に、今日はどれだけの人民を屈服させたか、死なせたか、誇らしげに語っていました。


老兵も新兵も捕虜上がりの兵もみな鬱屈していましたが、表情には出しません。
鬱屈を表情に出した途端、自分達も王様が嬉々として叩き潰す対象になってしまうからです。


兵は王様の近くに居る事を嫌い、周辺国の戦争へと乗り出しました。
宰相は王様の近くに居るうちに精神を削られ、薄暗い事、切羽詰まった事、それら全てを忘れやすくなりました。

そうしてストッパーがないまま、……ストッパーを王様が壊し続けた結果、その国は国土を増やし続けました。



兵隊は周辺国から破壊の化身と呼ばれました。
宰相は周辺国から羊の皮を被った怪物と呼ばれました。


それでも彼らにとってそんな評価など怖し殺し併呑する対象でしかありません。


そうしてある日王様は全世界を制覇しました。

もう王様について表立ってなにか言える人など誰も居ません。
王様もなにか言われることなどはなから求めていません。

何故なら王様は自分が欲しいもの以外の欠落は全て自分が欲しいもので補えるはずだと思っていたからです。










けれど、王様の支配した世界は、死の世界でした。


兵隊は際限のない、自ら望んだ過酷な日々により体を壊しました。
宰相はものの食べ方や眠り方さえ忘れ心を壊しました。
人民は粛清と逃亡と仲間割れの繰り返しにより、輪を壊しました。



王様は確かに足元にしゃれこうべをしいています。
手に彼らだったものを握っています。

からからと欠落の音が虚ろに響きますが、それは支配しているという実感で補えるはず。
そのはずでした。


それなのに、王様は支配した世界に初めて涙しました。




王様の嘆く声は、虚ろに沢山の白の中で響きわたり、そうしてじきに潰えました。





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最終更新日  2018.10.19 03:45:12
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