Laub🍃

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2017.11.07
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カテゴリ: 🌾7種2次表
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テセウスの船主

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世界は一度滅んだらしい。隕石とその後の洪水、そして天変地異、生態環境の変化。
それらから逃れる為、僕達の先祖は氷漬けにされ、あるいはシェルターの中で食いつなぎ、生き延びてきたらしい。

隕石が何個も地球に堕ちなければ、今頃僕達は何不自由なく、見たこともない道具に囲まれて暮らしていたんだとか。

僕達は今の生活が嫌いじゃないけど、でも過去の遺物を見ると羨ましくもなる。
『船チーム』と呼ばれる僕達は、海の底に沈んだ旧時代の遺物を探索している。

だけど、綺麗な宝物や使える金属類、道具類なんてここ数百年で殆ど取り尽されてしまっている。



今見付けられるものの多くは朽ち果てていたり、使い道が分からなかったり、あるいは僕達が思いつきもしないような酷い用途のものたちだったりで、あまり有り難いとは思えない。
『クルマ』も『ホウダイ』も、魚の養殖場や鳥の養殖場で巣箱にするぐらいにしか使えない。



一頻り潜っていたら、暗くなってきた。この辺りは発光生物が居るから夜でもほんのり明るいけど、用心はしておくにこしたことはない。
小舟に戻った後はいつもの通り、あの船の元へ行く。
あの船の完全な複製を造る。それが僕達の課題だ。

「ゾウトライオンマル」。

僕達の日本のご先祖が発見し、僕達のスペインやアメリカといった外国のご先祖との間で数百年間ずっと行き来してきた船。

何度も荒波に揉まれ、岩礁に乗り上げ、その度にタールを塗り直され、補修され、部品を替えられ、元の部品は殆ど残ってないそれは、数十年前に岩礁に挟み込まれて動かせなくなってしまった。


記録書には似たような事態で、旧時代の遺物の『弾薬』という火薬を使ったらしいんだけど、僕達の技術では火力や大きさ、爆発の方向をうまいこと調整できない。

記録書に同様に残されていた、『錆びた武器庫』に発掘に行けばいいという声もあるけど、あそこには海に慣れた僕らでさえ危険を冒さずして行くことはできない。



ご先祖がこの世界にやってきてから数十年の間で、ご先祖は既に日本や外国で発見し、書き写した書物を用いて小舟、中くらいの船を造ってきた。

効率よく海産物を採る道具として、そして、新たな大きな船を造る為の訓練として。

けれど、人手や資源、何より安全に使える確証が足りなかった。

力がないなら工夫をするしかない。
何人もが知恵を絞り、過去の資料と突き合わせ、現状存在する資材をかき集めて加工しては失敗してー…そうして代々完成に向けて積み重ねられてきた技術と知識が、今、ここに集まっているというわけだ。



「これだけの大きさと重さで本当に浮くのかね?」

 仲間の一人が、『オオグモ』に獲ってきた魚を食べさせながら言う。

「幸運の『ナツビー』の本家が乗ってれば大丈夫な気がするけどね」
「ああ…なんせ『オールド世代』の人達の中で、一人も欠けなかったらしいからな。頼んだぜ、子孫様」
「あのなあ……」

『ナツビー』の血が濃いと、生き残りやすい。
『アキ』の血が濃いと、安定し家族に恵まれる。
『フユ』の血が濃いと、動物に懐かれる。
『ハル』の血が濃いと、食べ物に困らない。
『ナツエー』の血が濃いと、戦闘能力が高い。
『シェルター』の血が濃いと、病気になりづらい。

日本ではそうした家系図を元にしたジンクスがあるけど、僕はあんまり信じてない。
特に、それでおかしな思い込みや諍いに発展した例を見たことがあるだけに。


世界は本当に復興出来るのか。
子孫を造る相手もまだ分からない僕には、未来を見通すことなんて出来るわけがない。


『ゾウトライオンマル』の船主に掘られた名前を見る。

僕達にとっては伝説の者たちの名前。
畏怖と憧れの対象。


彼等の未来に僕達は立っている。

けれど、彼等の遺したモノ達の中にこそ、僕達が進むべき未来への指標がある気がする。
どこまでも突き進みたい、人々を導きたいと言う強い意志、光。

落ちていく夕日に照らされる射干玉のようなそれは、目の奥に焼き付いている。





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最終更新日  2018.03.23 19:50:25
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