Laub🍃

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2018.01.25
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カテゴリ: .1次題
※このお話は実在の人物・団体などとは一切の関係がありません※


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ある所におかしな環境で育った男が居た。
しかしおかしな環境ではあるが、男の両親は自分はまともであると信じていた。
男は自分の両親も家庭もまともでリベラルで、それをおかしいと言う世間こそがおかしいのだと思うしかなかった。
事実、両親の考えはご立派ではあったのだ。少々夢想的でありそれを行使する人間が非常に有能であればそれは理想論ではなくなるというくらいには。
しかし両親はまだ有能であったが、男はそれにすら手が届かなかった。
両親は男に天から与えられる才能と努力を地道に続ける能力を期待し続け投資し続けたが、男にとってそれは徐々にプレッシャーになっていった。
DVというほどのものも受けていない。

だからどうにもできなかったが、何かが歪んでいる事だけは分かっていた。
男と互いに居ない者として扱いあっている兄もその歪みに影響していた。
世間や両親から半分見放されかけ、問題ばかり起こす兄。
反骨精神溢れる割に自分で自分の生きる食い扶持は稼げず、結局親の言う通りの進路を選ぶ事でしか生きていけない兄。精神的に縛られる男とは対照的に、肉体的に縛られている兄。
どういう人間か気になっていた。
同時に、こいつのようにはなるまいと思っていた。
だから、兄が好んでいた、異常者を愛する物語に足を踏み入れてしまった。
理解するために。せめて歩み寄る為に。
しかしのちに兄との仲は断裂し、男には異常者を愛する性癖のみが残った。

男は期待に必死に応えながらも、次第に、自分は異常な環境で育ったと言える人に憧れていた。
兄の影響で愛しはじめてもいた。


愛するのみならず、ネットではそれを騙った。
自分がそのとある異常環境で育った者なのだと騙り同情と共感と支持を得た。
しかし罪悪感も羞恥も影響し、それは結局作った人格で人生で自分の嗜好でもあるというメッセージは陰ながら発信していた。
これによって異様な形ではあったが、愛する者であり愛される者にもなれたのだ。
異常環境の元ネタは、「リベラル」な両親が集めた異常者や社会道徳や歴史や法学諸々の本たちであり、また普段の聞き上手な自分を頼ってくれる、本当に「異常環境」で育った人々の相談や実体験だった。


相談への手助けはしている。win-winの関係だ。
ネットで称賛もされている。win-winの関係だ。

だがたまに、そんな異常環境を装って同情を誘ったりするなど下劣な行為である、異常環境に本当に身を置かれている者からしたら罵倒に近いと言う人が居る。

気持ちは分からない事はないが、少し、少しだけ、「そういうもの」なのだと理解してほしいという気持ちもある。

男はそのことについて愚痴をこぼす。

目の前に居る従弟は、何故か何とも言えない目で男を見る。

男は信じている。

自分は家族の嘲る異常者ではない。

男は信じている。

自分は家族の犠牲になった異常者だ。

そうして自分が救われる為に、自分が救う為に、あの愛しい異常者を今日も演じる。





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最終更新日  2019.01.15 06:06:04
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