Laub🍃

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2018.02.27
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カテゴリ: 🌾7種2次表
生きている話。負うた子に何とやらな要視点。口調迷子。








ENSEÑAR 


*******


 毎日痛みで目が覚める。

 右目と左手、寄る年波による筋肉痛。

 だが、それは生きているということだ。

 生きていれば、生きてさえいれば、何でも出来る。

 他に何もなくても。

 隣に誰も居なくても。





 洞窟を出てから数年が過ぎた。
 未だに私は、生き残りである彼等と出会わないよう気を付けている。

 帰りたいとは思わない。今日も私は今まで通り遠くから見ている。
 それが私の残された役割だ。


 観察して、生きて、観察して、生きて、観察して……


 歯がゆい。連日歯がゆくて堪らない。
 助言を、指導を、訂正をしたい。
 求められていなくても、かつて頼られていた記憶が私を無性に駆り立てた。

 牡丹と螢がこちらに気付かなければ、どうなっていたか分からない。

 彼女達が気付いたお蔭で、私は直接手を出すことはできないものの、皆への警告や手助けは出来るようになった。

 せっかくなので、彼女達とは多少の情報交換程度はするようにしている。

 各チームの交流状況や健康状態、新はじめ子供達の生育状況、資材・食料の残りの状態、また建物がどれくらい保ちそうかといったこと、植物や昆虫、動物、海生生物達の隠れた生態バランス……考える頭、観察する目は多ければ多いほどいい。


 接触の機会が少ない安居達のことも、懸念事項の一つだった。



あれから何度か安居、涼、まつりの3人……船チームは拠点に戻ってきた。その度に資料や食品、種籾などの物品と地理・生物情報、海流・天候状況といった手土産を抱えて。

その度に安居の表情は角が削れ、夏Bはもとより、夏A、そして秋や春チームの一部メンバーともまた少しずつ話すようになっていた。

私が彼らに出来ることは本当に終わったんだと思うほかなかった。


ーそしてこれから、安居達は夏Bの何人かとともに海外へ向かう。
これまでよりも格段に厳しい旅になるだろうと、彼等は何週間もかけ、船旅の準備をしていた。


この世界の外。
そこには新たな出会いがあるのか。新たな出会いを良いものにできるのか。
これまでの経験を活かせるのか。
それは彼ら次第だ。



遠くで。


角又や、花達よりもずっと遠くで、私は見送る。

最近やっと、安居は出港時に甲板で陸の方を見るようになった。



「……」


頑張れ、という資格は私にはないだろう。

言われなくても彼らは頑張るのだろうが。

幸せであるように、とも言えない。

私にとっての彼らの幸せは、彼らにとっては幸せではなかった。

私は彼らを救えない。
私が彼らに願うこと全て、私のエゴに過ぎない。

単なる自己満足。

分かっている。

それでも。


「……いってらっしゃい」


風の吹く方に歩いていく背中に、送辞の言葉を送りたい。

井戸の外に這い出て、大海に泳ぎ出て、広い世界を知って、……そして、いつか。
帰ってきてほしい。

私に見せてほしい。
私がこの人生で学び得なかったことを。
私が自分と他人の人生から削ぎ落としてきたものを。

どうか取り戻して、教えてほしい。


「……無事に、帰って来いよ」


いってきます、と、小さな子供の声が聞こえた気がした。





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最終更新日  2018.03.12 23:10:11
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