Laub🍃

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2018.11.14
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「漸く静かになった」

 俺達は音に守られている。だが同時に音に殺されてもいる。

「うるさいお前の声ともおさらばだ」

 ラヴァはもう俺の声を聴くことはできない。


 やや調子の外れた声を張り上げるラヴァが痛々しくて、俺は抱きしめて、聞こえてないと分かっていながら「もういいよ」と言った。



*******


 風の大陸から送られてきた爆弾は俺達の街に甚大な被害を与えた。

 俺達の街は元々大きな岩と橋、そしてその間を轟轟と流れる水と風で形成されている。
 厳しい自然を克服し荒神の如き不運を調伏し、逆に利用せしめた俺達の祖先は偉大である。


 北は俺達の暮らす、風音の吹き荒れる岩と橋と波の国。南は活火山だらけの国だ。
 以前は南しか暮らすことができなかったが、橋をかける技術、人工食料を生み出す技術、周辺気温を操作する技術によって先祖は北へ進出した。そこには太古の昔別方向からこの大陸に辿り着いた人々が居たそうだが、先祖はその人々により良い船とより良い魚捕獲機、潜水機を授けることで無駄な血を流すことなく進出することができたのだそうだ。

 俺達はその恩恵を受けて少し調子に乗った。
 岩を削って得る武器、建物、道具、ロボット、真水を作る機械、通信機、車、機関車、戦車、船、浮遊機、発電機、波砕き岩、橋……様々な便利な道具を俺達は作ることができた。
 それでもって風の国に交渉に行ったのだ。
 これだけのノウハウを与えるから、少し土地を分けてくれと言いに行った。肥沃な土地は何にも代えがたいものだった。いくら人工食料や魚を食べられても、大昔遺伝子に刻まれた美味なる世界を忘れることは俺達にはできなかったのだ。
 しかし風の国は欲張った。

 そして交渉は決裂した。土地は与えられなかった。こちらからも大した技術は与えなかった。


 代わりに俺達は獣の国へ旅に出た。
 獣の国の人々は迷信深かったが、それでも俺達に土地をくれた。

 初めて実った作物は大変美味だった。



 なのにどうしてこうなってしまったのか。


「うまいもんを食べさせてやるよ」

 愛しのラヴァのベッドから離れ、俺は言う。

 風の国の奴らに災いあれ。
 奴らの食事をすべて奪い取れ。





 なあ、ラヴァ。俺によくお前は死ねって言ったよな。
 願いが叶うんだ、嬉しいだろ。

 俺は今から災厄になる。鳥になり虫になり霧になり、風の国のものをすべて少しずつ奪い取って、ここへ帰ってくる。楽土をここへ持ってくる。

 手始めはこの温室だ。
 お前が俺の前で唯一微笑んだこの温室をもっと大きく素晴らしくしてやる。

 お前はそこで幸せに暮らしてくれ。





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最終更新日  2021.06.06 16:46:35
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