Laub🍃

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長押綴

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2019.01.31

「茂はこれが好きだったよな」
「茂、よく出来たな」

　僕の名前は茂になった。

「野火桃太郎、野火桃太郎、野火桃太郎、野火桃太郎、野火桃太郎、野火桃太郎、野火桃太郎」

　春のチームの皆どころか他のチームにも会えないまま、５年が過ぎた。
　毎日毎日自分の名前を何回も唱える。そうすると春のチームの皆の声が夢の中で出てきてくれる。
　僕はその中ではまだ十二歳の子供で、みんなと一緒に旅をして、村で暮らしてる。
　みんなは元気だろうか。柳さんは死んじゃったけど。嫌な人だったけど、最期はみんなを守って死んだ。ここのリーダーもそうして死んじゃったのかな？皆話題にしないけど。

　僕は「茂」をうまく演じている間だけ優しくしてもらえる。

　実験動物扱いも、囮扱いも、皆と変わりばんこでやることに変わりはないけど、体力がついてきたから便所掃除よりはまだやれることが増えた。

　一生こうして生きていく、そんなつもりはない。だから今日も僕は野火桃太郎として生きている。
　茂を演じながらも元の自分を忘れない。千と千尋の神隠しのように、元の服も名前も忘れなければ帰れる。

　－だいいち、帰らないと、もとの「茂」だって嫌だろう。

　最近僕に似た誰かがよく夢に出てくるんだ。「君には帰る場所がある」「安居にはないんだ」「返して」って言うんだ。

　なら早く僕に力をくれればいいのに。ここから逃げ出して生きて他の誰かに会える力を。

　誰かに成り代わらなければいけない人生なんて、どうしようもなく不幸なんだから。

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