Laub🍃

Laub🍃

2019.10.03
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私は死んだことになっている。
 だから死んだつもりで何でもできる。

 火の将軍一族に噛みつける。
 盗賊に毅然と立ち向かえる。要求を拒否できる。
 かつて想いを通じ合わせた地の将軍を切り捨てられる。


 ーーーーーーーそうして全てが終われば、私の痕跡を全て消して、ここに帰ってくる。
 今度こそともに生きられる。

 そこで何も憂うことなく生きる日々の為に、色々なことを押し付けてしまった私の身代わりのところへ、生かしに行くのだ。




 木の大陸は大まかに分けて4つの地方に分かれている。

 北は、土着の神ユリアとその神官、アイビー一族、そして山脈と流れの速い川、鬱蒼と茂る森に守られた「獣区域」。
 東は、純血の風人と、木の王族と血を混ぜた火人の住む「火区域」。
 西は、純血の金人と、木の王族と血を混ぜた地人の住む「地区域」。
 南は、木の王族と言う名の人質兼生贄と、そのお膝元に身を寄せる貧しい者、逃げ遅れたユリア教徒、王族以外の者との混血児たちの住む「木区域」。

 私はこのなかで南の木の王族の姫として生を受けた。

 双子の姉と共に、どちらかが火の将軍に、もう片方が地の将軍に嫁入りすることが決められている人生。城下の人々とは違って食うには困らないけれど、代わりに自由のほとんどない人生を私達は送っていた。

 けれど私は逃げた。
 地の将軍に恋をし、想いを交わしてしまったが、私の嫁ぎ先は火の将軍だった。
 婚礼前に無体を働き続ける火の将軍に、「一生逃がさない」という声に、そして火の将軍の後ろに控える純血の風の妃に私は怯えた。

 火の将軍の弟が、そんな私に駆け落ちをもちかけた。


 将軍の弟は優しくて、私は彼に囲われながら、風の噂で双子の姉が地の将軍と結婚し、私の影武者が火の将軍と結婚したことを知った。

 影武者は私にそっくりだった。
 私は私の生きてきた意味が分からなかった。
 私は逃げ出したことで、あの時負うべきだった責任も権利もすべてを捨ててしまっていた。

 その想いが残ったのか、私は何度も木の姫の中身として生まれ変わっている。


 人の言うことをきいていてもいなくてもいつもそうだ。
 それでも私は贖罪の為に逃げ出さないでいた。
 けれど必ず地の将軍のもとに嫁ぎたいと、幼いころから言い続けていた。

 それが裏目に出ることもあったけれど、それでも私はうそをつかずに済んでいた。



 だから私は知らなかったのだ。火の将軍の手元で、偽物として暴かれた私の身代わりがどんな目に遭っているかなど。



 私の身代わりは不死身の人外だった。
 それが裏目に出て、身代わりは何度も何度も甚振られた。
 何度も何度も様々な血の子を産まされた。

 今もまだ、あの地獄で甚振られ続けているのだという。


 それを知った私は今度こそ助けに行かなければいけないと思った。

 身代わりは洗脳されていて、未だに自分が私自身であると信じ続けているのだ。





 私は今度こそ安らかに生を全うして眠る日の為に、一歩を踏み出した。





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最終更新日  2021.05.23 14:33:57
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