猫間屋【楽天広場出張所】

猫間屋【楽天広場出張所】

2007.03.05
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『先日、散歩していたら妙な所へ行った。
通り抜け出来そうな庭の片方を、えらく豪勢なフェンスで止めてあった。
中に犬がいた。
私は犬を沢山見たわけでは無いし、犬品評眼を所持して居るともいえない若輩猫なので、
「とりあえず、かなりデカくて割と黒い犬」と区分した。
一年ほど前に独り立ちする際に、母に、
百八つほど並べられた「猫の心得」の中に、たしか
「犬には近寄るべからず」とか「犬は塀の上から眺めるべし」たら「からかうのも面白いが調子に乗るべからず」だか、

私には、犬とは、なんとなく剣呑な生き物であるらしいとの印象があるだけであった。
概して子は母の言葉は聞いていないものだ。
とりあえず剣呑なものからは遠ざかるべし。とは残り八つのうちの教訓か、
逃げてしまおうと元来た道を帰ろうとしたのだが、よく考えると、これは犬ではない。
「犬が向こうに居る柵」である。
柵は襲っ来ん。
私は柵の観察をして見識を広めるのであり、犬を見るのではない。
…問題ない。
まず、柵の強度を調べねばならぬが、それは向こうの犬君がやって見せてくれた。
鼻面で押して来たのである。
多分犬種でも巨大種に入るであろう犬君が押してもびくともしない柵。

次は柵の質である。
これは犬君には任せられぬので、私が直接前足の美しき肉球で触れてみる。
冷たい。
結論、何だか知らないが金属らしい。
…ここまでくると自己を偽るのも限界である。

幸い犬君は飛び掛かったり、吠え付いたり、犬らしき行動をせず、何やら鼻声を出しながら尾を盛んに振っているのみだ。四つ足も全て地面に付けている。
向こうも私を観察しているのやもしれぬ。
それならば猫君子の威厳のためにも、私は犬を観察せねばならぬ。
母の教えには(多分)背く事になるが、その母は犬には合わずに車に出くわして彼岸に逝ってしまわれた。母様が万能でないなら母様の教えも万能ではないのだ。
犬を観察しよう。
既にしてしまっている行為の理論武装もした。完璧だ。

こうして私が悦に入っている間も、犬君は態度を変えずただ尾だけが忙しい。
体や頭は動かぬ。喋らぬ。
これではあまり柵と変わらぬ。

そこで私は犬君の鼻ずらを「ぴとぴと」と触ってみた。
かなりの勇気が必要だったが、柵君が後押ししてくれる。
私が犬君の鼻を触ると、なんと驚いた事に犬君は『ぴすぴすぴす』と鼻を鳴らし、尾を更に振り回しはじめた。
…これは面白い。
しかも、とりあえず怒っている様にもみえない。
どちらかと言うと喜んでいる様な感さえある。
鼻面を触られて喜ぶというのは私の理解を超えている。しかし超えているというのなら、そもそも犬君達全般の行動は猫族の理解の外である。
猫族は不機嫌な時に尾を振り、機嫌のよい時は真っ直ぐに天を刺す。
犬族は全く逆である。逆であるばかりか、巻き尾というけったいな尾を持つ犬君までいる。上を向いて反っているのをみると、あれは常に不機嫌なのか?しかし揺れているのならば上機嫌なのか?
幸いにしてこの眼前の犬君は尾が巻いていないのでこの問題は棚上げにした。
私が触ると犬君はその場で回りもする。
触る、回る。触る、回る。
これは楽しい。
私は夢中になってきて、犬君の大きさはどこへやら、その鼻面しか見えぬ。
終いには後足で立って、片手を柵にかけ、片手を肘まで入れて犬君の鼻を押した。
勿論爪は立てん。
犬君が好意的らしいのもあるが、爪で挨拶してしまえば犬君の好意的態度も豹変して、今は見えぬ牙での挨拶を頂くかもしれぬ。
まあ、元より私にも犬君への敵意は無いのだし、何にでも爪をかけた幼少時代も卒業している。』


(日記はここで中断された。
何故ならいつもの婦人が残飯をくれに出てきたから。
早く行かねば青屋根のトラ縞が食ってしまう。
野良と文筆は両立せん。)





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Last updated  2007.03.13 02:49:31


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