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月臣邸
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2005.12.21
雪の日に。
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切っ掛けは、とても些細な事だった。
――俺が、窓を開けた。
それだけ。
「るぅきー…寒いよぉ。窓閉めて」
「はぁ? あっついじゃん。何言ってんのお前」
「流鬼は暖房の傍にいるからあっついの! 俺は寒いの! いいじゃん、閉めてよぉ」
「お前よぉ、この冬の風が一番気持ちいいのに」
俺の家で何勝手ほざいてやがる。
何様ですかお前はコノヤロー。
縮こまっていて、なんか小動物みたい。
体育座りでソファに凭れ、膝の上にカップを置いて遊んだり。
…かわいー…
じゃねぇよ。今微妙に喧嘩しそうな雰囲気なんだよッ!
「風邪ひいたらどうするのッ! 俺も流鬼もボーカルなのに」
「あー? 風邪ひいたら看病してくれよ」
「…何言ってんのッ! とにかく、俺は寒いの! 折角暖まった部屋になんで寒い風入れるんだよ! 意味わかんないっ」
「意味わかんなくねぇだろ! こんな暑い部屋のままにしとく方が、余計汗掻いて風邪ひくじゃねぇか」
「……っそんなことないよ! 寒い風に当たってた方が絶対風邪ひくもん! いいから窓閉めてっ」
「フン、やだね」
あー、怒ってる怒ってる。
俯いてる黄泉の顔は見えないけど、随分と顔が真っ赤だ。
「…も、ゃだこんなとこ…。
流鬼のばか! ハゲ! だいっきらい!」
「は、…はげ!? ちょっ…黄泉!!!」
あり得ない暴言を吐いた後、黄泉はカップをダン!とテーブルに置き、走って玄関まで逃げていった。
――フツー、裸足で逃げるかぁ?
「…ったく、あのバカ…」
外は雪。
もう4時が過ぎていて、太陽と月が入れ替わる頃。
地面は凍っていて、かなり滑りそう。
シンシンと降ってくる雪は、止むことを知らない。
…アイツ風邪ひくよな、絶対…。
ハァ、と溜息を1つつき、俺はコートを羽織り玄関へと向かった。
「……」
そういえば、黄泉ってこーゆー時どこに逃げんだろ。
見つけられるかな…、とか考えてみたけど…。
全然問題なし。
何故なら、裸足特有の足跡と――どうせ氷で足の裏を切ったのだろう、赤い血が雪に染みているから。
これの後を追っていけば、おのずと黄泉を見つけられるだろう。
てくてくと、5分ぐらい足跡を辿って歩く。
しかし…どんだけ逃げてんだアイツは。
それにしても、外は寒い。
コートを着てマフラーを着用していても、全然寒い。
この冬空の中を、あのバカはコートも着ず靴も履かないで出てくなんて…。
…あー、もういいよ。俺が悪かったよ。
窓を開けた俺が全部悪いんだよな。
でも、なんで窓を開けただけであんなに怒るんだよ?
風邪ひくことってそんなに悪ぃ訳?
はー…まぁ、別にいいけどさ。
やがて、足跡はある公園へと入っていった。
辺りがもう暗くなっていて、お粗末な街灯がよく所々を照らしていた。
もうガキの1人もおらず、声も聞こえない。
足跡を辿っていくと――
キィ、キィとブランコが揺れていた。
血はブランコの所まで続いてってる。
パッと見ガキと大差ない身長――
黄泉が、いた。
ブランコを緩く漕ぎ、…泣いてるみたいだった。
「…ハァ」
つい溜息を漏らしてしまう。
ったく、何やってんだか。
くだんねー喧嘩如きで泣いてんじゃねぇよ。
俺から、離れんなよ。
「黄泉」
「…っ! ぁ、流鬼…っ?」
気付かれないように、後ろに回りこんで抱きしめた。
ビクン、と凍えた体が大袈裟に跳ねる。
かなりの薄着。首筋に後ろから顔を埋めると、かなり冷たかった。
「…何してんの」
「…………」
ゴシゴシと目を擦り、フン、と拗ねたようにそっぽを向く黄泉。
しかし、小さな体は小刻みに震えてる。
「……」
チラッ、と足を見るとかなり赤い。
霜焼けと氷と擦れて出来た傷。そこから垂れてきている血が生々しい。
ツ、と頬を舐めてやると、黄泉の体が強張った。
後ろからキツく抱きしめ、自分の息を感じさせるように首筋に歯を立てる。
「……は、ぁ…ッ」
人間の息というのはとても温かい。
凍えた黄泉の体は、熱を欲するように自然と俺に縋り付いて来る。
「ん、…るきぃ…っ」
乾いた首筋の肌に舌を這わせると、ピチャ、と濡れた音がする。
黄泉の息も荒くなってきて、目元や頬が赤く染まってた。
「…るき」
黄泉はクルッと後ろを向き、正面から俺を抱きしめた。
それが愛しくて、コートで小さな体を包み込む。
ズズッ、と黄泉の鼻を啜る音が聞こえた。
「…痛いだろ、足…。寒いだろ?」
「…ん…」
「……ごめん、な…」
「……あのね、俺も…ごめ…ん」
涙をポロポロ流しながら、顔を真っ赤にして俺を見上げた。
「風邪、ひいてほしくなかった…の。
流鬼と、遊べる時間…少なくなる、から…っ」
「………黄泉…」
…やべ、コイツ…超可愛い。
ギュッと抱きしめて、涙で濡れた頬に頬擦りした。
やっぱまだまだ体は冷たい。
「あと、…窓……閉めてくれなくてもよかったん、だけ…ど」
「…は?」
「…ただ、…窓…ソファから遠い…でしょ? だから…っ近くに居て欲しかった…の…」
…窓からソファまで、1M以上距離がある。
ってことは…俺がソファから立ち上がってどっか移動する度に黄泉がしてた、あの寂しそうな顔って…そういうことだった訳?
何コイツ…マジで可愛すぎだし。
「…ごめん。もう離れねーから。家帰ったらずっと黄泉の隣にピッタリくっついててやるからよ」
「…ぅ、ん…流鬼が隣にいるとね、…暖かい…から」
ニコッと微笑んだ黄泉の唇に口付けを落とし、ひょいっと小さな黄泉の体を抱っこした。
「!? ひゃっ!?/// ちょ、何してるの…っ?」
「足。痛いだろ? お姫様だっこしてやるから」
「ちょ! もしかしてこのだっこしたまま家まで!?///; や、やだぁ恥ずかしいッ」
「あーもうジタバタすんじゃねー」
聞く耳もたず、といった感じで。
俺は黄泉をお姫様だっこしたまま公園を抜けた。
家に帰った君には、暖かいボルシチを。
暖まった体に、もう離さないようにと抱擁を。
朱に染まった顔色の君には、耳を塞ぎたくなるくらいの睦言を。
”誰よりも君を愛してる”
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Last updated 2005.12.21 17:46:43
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