~新潮文庫、 2017 年~
米澤穂信さんによるノンシリーズの短編集です。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
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「夜警」
頼りないと感じていた同僚が殉職した。夫が妻を殺そうとしている―その現場に駆けつけたとき、同僚は発砲し、相手に刺し殺された。しかし、その日は何かおかしなことが続いていた。同僚は名誉ある殉職を遂げたのか。上司がたどり着く結論は…。
「死人宿」 突然失踪した昔の恋人―佐和子の所在を知り、山奥の宿にたどり着いた私は、無事に佐和子に出会えた。彼女が働く宿は、自殺名所としても有名な場所だった。そして、投宿客の誰かが書いた、まるで遺書のようなメモが発見され、私は佐和子のため、誰が遺書を書いたのかを探ることになる。
「柘榴」
大学時代、多くのライバルに勝って、ついに結婚した男は、夫としては失格だった。ほぼ不在にしつつ、ふらりと帰ってきては、娘たちとも遊んでいる。夫との離婚を決意する私だが、問題は親権をどちらがとるか。実質、自分一人で娘たちを育ててきた私は、親権が自分にあると考えていたが、裁判所からは意外な結論を聞かさせる。果たしてその経緯は。
「万灯」
バングラデシュで天然ガス開発に関わっていた私は、苦労を乗り越え、なんとか開発を進められそうな状況にまでたどり着く。しかし、そこでは、要所となる村の指導者を殺すことが条件とされた。私がとる行動は、そしてその後に待ち受ける運命は…。
「関守」
ライターとして怪談記事を書くことになった俺は、何度も同じ場所で死亡事故が起こるという場所の調査に行く。場所を紹介してくれた先輩は、そこは「本物」だという。怪談を信じない俺は、取材を通じて、死亡事故を結びつける何かが得られないかと考えを進めるが…。
「満願」
苦学生の頃にお世話になった下宿のおかみさんを、弁護士として助けることになった私。彼女は、貸金業者殺害の容疑で逮捕された。論点は、正当防衛だったかどうか。必死で弁護を続け、控訴すれば勝算も見えるという矢先、彼女は控訴を取り下げ、実刑を受けることになった。彼女の判断の理由は、そして事件の真相は…。
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杉江松恋さんの解説がとても要領よくまとまっていて、参考になります。この方の解説は良いですね。
さて、本書には、完全にノンシリーズの6編の短編が収録されています。共通するシリーズキャラクターもいません。が、どれも抜群に面白かったです。
どの物語も、闇があるというか、読後感が爽快なものではありません。「夜警」で明かされる意外な真相、「柘榴」で子どもがとる行動の真意など、重たい気持ちになってきます。杉江さんの解説にもありますが、冒頭で大がかりな事件や不可能状況のような事件が提示されるわけではありません。きっかけは、あえていえば地味な「ズレ」のようなものですが、その「ズレ」がなぜ生じたのか、という思いから、どんどん物語に引き込まれました。
これは面白かったです。
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