愛川晶『海の仮面』
~光文社文庫、 2002 年~
栗村夏樹シリーズ三部作の完結編です。文庫版で 730 頁と、ボリュームもシリーズで一番となっています。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
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幼稚園に実習に通っていた夏樹だが、ある日から、個別観察記録で担当することとなった男の子の様子がおかしくなる。後日、男の子に出会った夏樹は、男の子から奇妙な絵を渡される。7つの首をもつ龍と、夏樹が描かれた絵だった。しかし夏樹の顔は、緑に塗られていた…。
一方、夏樹の母が、何者かに当て逃げされ、入院してしまう。母を見舞いにきた奇妙な男に、母は会いに行っていたという。男は、いろいろな事情を知っていそうだが、話さないかわりに、夏樹にビデオテープを渡す。そのテープには、ある男がこぐ船が爆破する様子が映されていた…。
父の死にも関係があるというテープの事件を探るため、新潟を訪れる。そこで夏樹は、船の爆破事件が、まるで密室状況の中で行われていたことを知ることとなる。
さらに夏樹は、男の子の絵からたどりついた宗教団体的な団体に近づく。そこでいくばくかの安らぎも感じ始める夏樹だが、団体のイベントの中で事件が発生する。外からの闖入者により、劇がめちゃくちゃにされてしまうのだった。闖入者に怒った団体の長は、彼の死を予言する。そして予言のとおりに、闖入者は死んでしまうことになる。猛スピードで車を走らせ、海に落ちたとしか思えない、奇妙な状況に、自殺説も浮上するが、一方で自殺とは思えない点もある。
一連の奇妙な事件、そして夏樹が子供の頃に起こった父の死の真相とは。
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これは面白かったです。冒頭にも書きましたが、シリーズ最大のボリュームで、しかも内容も濃いです。
夏樹さんのお父さんが殺された事件では、犯人には完全なアリバイがありました。さらに密室状況といえる中での船の爆破事件、予言どおりの死、子供の描く奇妙な絵などで、物語に引きつけられます。それらがきれいに解き明かされていくのも見事です。
今回、夏樹シリーズを一気に通して読みましたが、この作品に出会えたのはとても良かったです。タイトルも、シリーズの中では一番好みですし、中身も素敵でした。良い読書体験でした。
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