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2018.11.02
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二宮宏之・樺山紘一・福井憲彦編『叢書・歴史を拓く―『アナール』論文選4 都市空間の解剖(新版)』

~藤原書店、 2011 年~

 『アナール』論文選第4巻、シリーズ最終巻です。

 本書の構成は次のとおりです。

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新版刊行に寄せて(福井憲彦)

解説 近代生成史から都市空間の解剖へ(福井憲彦)

Ⅰ.都市をみる眼(フランソワーズ・ショエ、福井憲彦訳)

Ⅱ.中世フランスにおける托鉢修道会と都市化(ジャック・ル=ゴフ、江川温訳)

Ⅲ.十八世紀における社会関係と都市(ジャン=クロード・ペロー、工藤光一・二宮宏之訳)

Ⅳ.十八世紀パリにおける暴力の舞台(アルレット・ファルジュ/アンドレ・ズィスベール、福井憲彦訳)

Ⅴ.パリの読書クラブ(フランソワーズ・パラン、山田登世子訳)

コメント 十八世紀、江戸の都市空間

文献目録

図版出典一覧

―――

 解説では、過去には「近代性の母体としての都市、およびそういうものとしての都市の起源・変遷」として研究されてきた都市史への、新しい研究アプローチを、本書所収の論文も位置づけながら整理しており、有益です。都市は一般的定義は不可能な、ポリエードル(多面体)である、という点を明確にし、地域的ネットワークや社会集団などのキーワードから整理していきます。

 第一論文は、都市計画と歴史の関係を探ります。この論文で興味深かったのは、 1867 年に『都市化の一般理論』という著作を刊行したイルデフォンソ・セルダという人物の思想です。マドリードの橋梁技師で、バルセローナ拡大の計画立案・実行者として知られる彼は、「産業革命によって導入された急激な変容のグローバルな性格を感じとり、その他の社会諸構造との共時的関係のなかで都市空間を考える必要性を、感じ取っている。……都市構造と交通の構造との相関関係をうちたてた、最初の人」であり、「まさにこの直感的な知覚から…都市計画の方法のなかに歴史をくみこんで」いった人物と評価されています (44-45 )

 第二論文は、著名な中世史家ジャック・ル・ゴフの、有名な論文の一つで、中世都市の都市化の判定基準として、都市を志向した托鉢修道会の修道院の設置状況を設定してはどうか、という試みです。フランシスコ会のボナヴェントゥラは、都市を志向する理由として、「人間の教化」、「食物の乏しさ」、「防護」の3つを挙げます。またドミニコ会のアンベール・ド・ロマンは、「都市人口の多さから都市で説教をすることが効率的」、「都市の道徳観念が相対的に低下していることから都市での説教の必要性が高い」、「都市を通じて農村に影響を与えられる」、という3つの理由を挙げます。また本論は、これらの理由から都市に進出した托鉢修道会の修道院の分布状況を丹念に分析し、フランシスコ会とドミニコ会の都市選択の基準の相違などを指摘します。

 第三論文は、都市内の多様な社会集団とその関係を論じます。

 第四論文は、 18 世紀パリにおける暴力の諸相を描きます。冒頭から、裁判記録の中で、殺人・暴力の件数はどんどん減少し、 18 世紀には窃盗や詐欺の件数の割合が増加する、「流血の犯罪から所有の犯罪へ、という移行」があったとの興味深い指摘がなされます。その理由として、パリの警察機構の発達が挙げられ(裁判になる前に警察が介入して解決する)、そこで警察機構による人々への暴力、逆に民衆から警察機構への暴力といったテーマが論じられます。さらに、家庭内の暴力、居酒屋での暴力など、いろんな場所・場面や関係性ごとの暴力を論じます。パリにおける暴力の発生場所や、被害者、加害者の家を示した地図も掲載されており、興味深いです。

 第五論文は、パリの読書クラブについて、その場所や、場所ごとの性格の相違などを論じており、こちらも個人的にはなじみのないテーマでしたが興味深く読みました。

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Last updated  2018.11.02 22:30:30
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