島田荘司『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』
~新潮社、 2018 年~
御手洗潔シリーズの長編です。久々のシリーズ新刊ですね。
新潮社からの刊行ということもあるのか、 『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』 の語り手サトルさんが、本作でも語り手をつとめます。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
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1964 年、東京オリンピックで日本が興奮にわいていた年のクリスマス。鳥居の左右が、両側の建物に突き刺さっているという奇妙な場所。その方側の建物で、奇妙な事件が発生した。母と娘が二人で暮らすその建物では、一階も二階も、ドアにも窓にも内側からしっかり鍵がかけられていた。朝、8歳の少女が起きると、サンタさんからのプレゼントが置かれていた。そして一階では、母親が殺されていたのだった。
両親から一度もプレゼントをもらったことのない少女―楓は、生まれて初めてサンタクロースからプレゼントをもらった。別居していた父は、同日の朝、電車にひかれ命を落とす。父の遺書には、父の工場で働いていた男が犯人と思わせる書きぶりがあった。父の姉にひきとられ、少女は育てられることになる。
1975 年。サトルは、予備校で楓と知り合い、彼女の話を御手洗潔に伝える。事件があった年、その町では奇妙な現象が起きていた。多くの住民が不眠を訴え、また夫婦ゲンカも増えたというのだ。そして事件後には、不眠を訴える人がいなくなったという。さらに、楓の養母が経営する喫茶店では、動かないはずの振り子時計の振り子が動き出すという現象も起こった。
一連の奇妙な出来事と、不可解な密室殺人の真相とは。
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これは面白かったです。大好きな作品になりました。
彼女の父の工場で働いていた国丸さんのエピソードは、辛くもあり、しかし国丸さんのひたむきな思いに胸をうたれます。
楓さんは、そのクリスマスに、両親を失うことになりますが、同時に、そのことに気づくまでは、はじめてサンタクロースにプレゼントをもらった喜びにあふれていました。そのプレゼントのおままごとセットだけで、私はもう泣けてきました。
事件の不可解さも抜群で、ミステリとしても非常に面白いだけでなく、とても感動的な物語でもあります。
島田荘司さんの作品の中では多くのお気に入りがありますが、本作もその一つとなりました。
本当に良い読書体験でした。
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