河原温/池上俊一『都市から見るヨーロッパ史』
~放送大学教育振興会、 2021
年~
中近世を中心に、「都市」の観点からたどるヨーロッパ史の概説です。
『中世ヨーロッパの都市世界』
や 『都市の創造力』
などを紹介したことがあります。
池上先生は幅広い著作を刊行しています。ここでは、最近の大著 『ヨーロッパ中世の想像界』
を挙げておきます。
編者はこのお二人ですが、近世史に関する章は放送大学客員講師の林田伸一先生が執筆担当しています。
本書の構成は次のとおりです。
―――
まえがき(河原温、池上俊一)
1 序論:前近代ヨーロッパの都市を見る視点(河原温・池上俊一・林田伸一)
2 ヨーロッパにおける都市の起源(河原温)
3 中世都市の成長と封建社会(河原温)
4 中世都市の社会構造(河原温)
5 中世都市のイメージと現実(河原温)
6 中世都市の統合とアイデンティティ(河原温)
7 中世都市と学問(池上俊一)
8 中世都市の音風景(池上俊一)
9 中世都市の祭りと民衆文化(池上俊一)
10
聖なる都市から理想都市へ―ルネサンス期のイタリア都市(池上俊一)
11
宗教改革と都市(池上俊一)
12
近世都市の社会集団と文化(林田伸一)
13
王権と近世都市(林田伸一)
14
近世の都市空間と秩序維持(林田伸一)
15
近世都市から近代都市へ(林田伸一)
索引
―――
河原先生は主に都市成立から中世盛期までを通史的に論じますが、中には4章のように経済活動や様々なギルドへの言及や、5章のようにエルサレムなどの理想の都市や、悪徳の場としての都市イメージなども論じており、いずれも興味深いです。
池上先生は中世盛期から宗教改革期まで目配りしつつ、学問、音風景、祭りなど個別のトピックスを掘り下げます。特に興味深かったのは、池上先生がかねてから進めていらっしゃる音風景論です。まだまとまった単著は出ていませんが、たとえば池上俊一「ヨーロッパ中世における鐘の音の聖性と法行為」『思想』 1111
、 2016
年、 6-26
頁という論文があります。
林田先生は、教科書では軽視されてきた近世都市について、近年独自の歴史的価値が認められてきたことから、近年の研究動向を踏まえてその諸相を論じます。
以下、興味深かったポイントをメモ。
・托鉢修道会の第三会が実働部隊として、牢屋への囚人訪問などの慈善活動を実施 (p.19)
⇒具体的な活動が気になるところ。
・絶対王制の「絶対」とは、国王が恣意的に権力を行使できるということではなく、慣習法や中世的な諸機関の拘束から解き放たれていることを意味するにすぎない (p.24)
。これは勉強になります。
・女性は一般にギルドの成員にならなかったが、女性だけのギルドも存在 (p.75)
各章末には邦語文献を中心に参考文献も掲載されているほか、最新の研究動向を踏まえた要点を得た記述となっており、ヨーロッパ(中近世)都市史を概観するのに有益な一冊です。
(2022.06.26 読了 )
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