ジャン・ルクレール(神崎忠昭・矢内義顕訳)『修道院文化入門―学問への愛と神への希求―』
~知泉書館、 2004
年~
Jean Leclercq, L’amour des lettres et le désir de dieu: Initiation aux auteurs monastiques du moyen âge
, édition corrigée, Paris, Les édition du Cerf, 1957
今なお参照される、修道院文化に関する基本的文献です(たとえば 杉崎泰一郎『修道院の歴史―聖アントニオスからイエズス会まで―』創元社、 2015
年
訳者の一人、神崎忠昭先生は慶應義塾大学名誉教授。本ブログでは次の概説書を紹介したことがあります。
・神崎忠昭『新版 ヨーロッパの中世』慶応義塾大学出版会、 2022
年
もう一人の矢内義顕先生は早稲田大学教授で、宗教学がご専門のようです。
本書エピローグで、ルクレールは、本書の主要な問題を「歴史」と「霊性」に関わるものと述べていますが( 323
頁)、まさにそれぞれの専門家2人による訳書ということで、たいへん読みやすく分かりやすい訳文になっていると思います。
本書の構成は次のとおりです。
―――
第3版への序文
第2版への序文
略号表
序論 文法学と終末論
第1部 修道院文化の形成
第1章 ベネディクトゥスの回心
第2章 大グレゴリウス 希求の博士
第3章 礼拝と文化
第2部 修道院文化の源泉
第4章 天の崇敬
第5章 聖なる書物
第6章 古代への情熱
第7章 自由学芸の研究
第3部 修道院文化の成果
第8章 文学ジャンル
第9章 修道院神学
第 10
章 典礼の詩
エピローグ 文学と神秘的な生活
訳者あとがき
付録
原注
索引
―――
本書は、「 1955-56
年の冬、ローマの聖アンセルモ大学の修道院研究所において、若い修道士たちのために行われた一連の講義からなる [
中略 ]
入門書」 (vi
頁 )
という性格の1冊です。
序論とエピローグなどで、修道院において「文法学」が果たした役割が強調されているのが目を引きます。
第1部は、本書が主な対象とする 12
世紀の修道院文化の源泉として、『戒律』を著したベネディクトゥスと、彼の伝記を著したグレゴリウス大教皇の2人の重要性を強調します。あわせて、第3章で、カロリング・ルネサンス期に、修道院文化が固まってくることが示されます。
第2部は、カロリング改革以降の修道院文化の様相をたどります。まず第4章は、修道院の源泉として「文法学と終末論」の2つを挙げた上で、終末論に関する「天の崇敬」を見ます。第5章は文学的な源泉として「聖書」「教父の伝統」「古典古代の文学」の3つを挙げ、主に聖書解釈についてみていきます。第6章は教父の著作を、第7章は古典古代の文学として自由学芸の受容を取り上げます。
第3部は、具体的な修道院文化の成果を見ていきます。第8章は文学ジャンルとして、歴史、聖人伝、説教、書簡、詞華集(アンソロジーのようなもの)などを取り上げます。第9章は神学、第 10
章は典礼を扱います。
興味深い指摘は多くありましたが、挙げていくときりがないので簡潔な紹介にとどめてしまいました。
とはいえ、冒頭にも書きましたが、多くの文献で今なお参照される基本的文献であり、学生時分から部分的には読んでいた本書をようやっと通読できて良かったです。
(2024.07.14 読了 )
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