横溝正史『死仮面〔オリジナル版〕』
~春陽文庫、 2024
年~
横溝正史さんの中編「死仮面」は、以前に春陽文庫版 『死仮面』
( 1998
年)の記事でも書きましたが、角川書店から刊行された時点では、雑誌連載の初出のうち、一部初出誌が見つからず、中島河太郎さんの補筆により刊行されていました。
未発見分が発見されたことを踏まえて刊行された 1998
年春陽文庫版は、しかし当時の風潮により、現代では不適切とされる言葉が改変・削除されていました。
このたび刊行された〔オリジナル版〕は、初出原稿をもとに刊行されていて、不適切とされる言葉も、「作品の文学性・芸術性に鑑み、原文のまま」とされています。
また、本書には、付録として、草稿に加筆した原稿(冒頭 25
枚分のみ)がそのまま掲載されていて、さらに資料的価値の高い1冊です。
「死仮面」のほか、ジュブナイルものの初文庫化短編「黄金の花びら」も併録されています。( 横溝正史『聖女の首(横溝正史探偵小説コレクション3)』出版芸術社、 2004
年
に所収)
以下、 2009.02.07
の記事から、「死仮面」の内容紹介の再録と、「黄金の花びら」の簡単な内容紹介を。
―――
「死仮面」
昭和 23
年( 1948
年)秋。『八つ墓村』事件を解決した金田一耕助が磯川警部を訪れると、警部は新たに金田一耕助の興味をひく事件を抱えていた。
マーケットの奥の方、人通りの少ないところに、野口慎吾という、人付き合いのない彫刻家の店兼住居があった。そこで、女の腐乱死体が発見された。野口によれば、女の名は山口アケミ。女は、死ぬ間際、自分のデスマスクを作り、ある女性のもとに送ってほしいと言い残したという。その送り先の女性とは、参議院議員で教育家の川島夏代だった。
野口は警察から取り調べを受け、精神鑑定に護送される途中で、逃げてしまったという。
…そして、東京。三角ビルに事務所を構える金田一耕助のもとに、上野里枝という女性が依頼にやってきた。彼女は、川島夏代の妹で、山内君子の姉だという。三人の姓が違うのは、父親が全員違うから。そして、君子というのが、デスマスクをとられた山口アケミと同一人物のようであった。
川島夏代が経営する女学院には、脚の悪い男が現れ、その頃から、夏代の健康状態も悪化していったという。そしてついに、夏代が殺害された…。
女学生の白井澄子の協力を得ながら、金田一耕助は事件の真相に迫る。
「黄金の花びら」
おじの家に泊まりに来ていた竜男君は、
ある夜、いとこの呼びかけで目を覚まします。不在にしているおじ―博士の書斎から、物音がするといいます。見にいくと、そこには怪盗が…。逃げた怪盗を威嚇するため、おじの銃を借りて発砲すると、怪盗は倒れてしまい…。
決して当てたはずはないのに、怪盗はなぜ殺されたのか。さらにまた、書斎で奇妙な事件も起こり…。
―――
どちらも再読ですが、やはり「死仮面」は衝撃的な作品です。ただ、さいごには救いもあり、金田一さんの優しさにあらためて触れられる作品です。
冒頭に書きましたが、本書の魅力はその資料的価値の高さにあると思います。日下三蔵氏による覚え書きも、「死仮面」原稿の経緯などが詳細に分かり、興味深いです。
(2024.10.26 読了 )
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