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2015.11.10
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  普通に言えばオバケと名乗ったオバケは、

  黒いゴマ粒のような両目を艶々と輝かせながら、

  「ソレガシ、今はマンションになっているけれど、

   もともとここに建っていたお屋敷の屋敷霊だったのよ」

  と、つばの左側をひらひらさせて言いました。

  「ああ、このマンションを管理している不動産屋の人も言ってたな。

   江戸時代は大身のの旗本が住んでたって」

  僕はうなずきました。

  港区南麻布の高台に断つ8階建てのマンションの3階の、この305号室に、

  僕が入居して3年目に入っています。

  「そうよ、ソレガシはその頃からいる」

  「お前、何歳なの?」

  「オバケに年齡は関係ない」

  頭部とつばだけのオバケは頭部を少し上へ伸ばして首を作ると、

  その首を強く振りました。

  「ソレガシ、屋敷が取り壊しになってから、しばらく、そこのカシノキの洞で熟睡していたのよ。

   このマンションは築7年目か。7年目に目覚めたってことよ」

  このマンションは30メートルほど間をとって、

  もう1棟、作りがまったく同じマンションと並び立っています。

  どちらもお屋敷時代の敷地内に建てられ、その工事が始まる前、

  鬱蒼としていた屋敷森の木々が伐り倒されていきました。

  しかし、樹齢約400年と推定されるカシノキの巨木だけは、

  チェーンソーを当てても歯が立たず、なおも当てようとすると、

  枝々が怪しく揺れ騒いだそうです。

  そのとき、チェーンソーを当てていた作業員は、

  突然、心臓発作を起こして昏倒し、そのまま息を引き取りました。

  これはカシノキの祟りだということになり、

  伐り倒すのをやめて当初大規模棟1棟の建設計画を、

  カシノキを挟んで中規模棟2棟にした、

  とこっちの棟の管理人のおばさんに聞いたことがありました。

  「工事のとき、そのカシノキの祟りで作業員が1人亡くなっているんだ。

   もしかしたら、お前が悪さしたんじゃないの?」

  「ソレガシ、熟睡していて何にも知りません」

  オバケはつばを左右に両手のように長く伸ばして小首を傾げました。

  「ところで、なぜおれの部屋に侵入したんだ。

  「侵入?」

  オバケはいかにも心外だと言わんばかりにつばをゆらゆら揺らし、

  黒いゴマ粒のような両目を黒糸のようにして少し釣り上げました。

  二重丸の口はへの字に結ばれました。

  「キミこそ侵入者なんだよ。お屋敷時代、

   ここは天井裏でソレガシの安住の場だったんだ。

   今日からソレガシ、ここに住む」

  オバケは二重丸に戻した口をピクピク忙しく震わせました。

  「おいおい、オバケなんかと一緒には住めないぞ。

   客がきたらどうするんだ?」

  「ソレガシの姿はキミにしか見えないって」

  「えっ、そうなの」

  僕がポカンとなると、オバケは虚を突くようにまくしたてました。

  「共に住めば同志じゃないの。キミのお役に立つことも多いと思うよ。

   だから、ルームメイトのキミのことをよく知りたい。姓名

、  年齡、職業は?」

  「佐倉宗之助、35歳、職業はラノベ作家…」

  僕はやけくそ気味に答えました。

  「ラノベって?」

  「ライトノベルという分野の作品を書いているんだよ」

  「ほう、キミは作家の先生なの。じゃ、威儀を正して…」

  オバケはつばの左右部分を真下にスススーッと伸ばして、

  両足のようにして先端を少し折って床に立ちました。

  「よろしゅうお願いします」

  体を直角に折ってお辞儀をしました。

  成り行き上、僕も「よろしく」と応じ、

  「お前の名は?」

  と、訊いたんですよ。

  「名はない」

  「それじゃ困るんだよ。じゃ、バケノスケと呼ぼう」


  そんなこんなでバケノスケとの同居生活が始まったのでした。



  • バケノスケ挿絵2.jpg
  • バケノスケ挿絵2逆さ.jpg




















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最終更新日  2015.11.10 17:14:03
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