おいしい 千葉 ~ponの食べある記~

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2006.03.22
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たとえば風防が好きである。風防が好きというより、風防ごしに見る風景が好きと言ったほうが正解か。戦闘機はその目的から考えるととても乗りたいとは思わないが、あの風防の中に入ってみたいと、オトコの子ならだれでも空想するのではないだろうか。B29に上下斜めに発射する機銃席があった。それがドーム型をした風防なのだった。そこに座ってみたいと本気で思ったことがある。同様にマッハ号の座席も然り、電車の運転席然り、サンダーバード2号・4号の操縦席然り、ジャンボジェットのコックピット然り。狭い場所に押し込められるのが好きなのではなくて、風防越しに眺められるあの席のカッコ良さにとてもあこがれた。

無限のテーマパークのメインストリート、五井駅前通りはとても短かった。駅からまっすぐ伸びて16号(現:旧道)でT字に突当たってお仕舞いとなる。途中左折して平田踏切にむかう路地がある。1本目の角に「三四郎食堂」があった。強くこすると、服に板地が白墨のように付きそうな板張りの造り。入口のすぐ脇に厨房スペースが四角く区切られていた。

小学4年のとき、家族でその食堂に入った。どういう気まぐれか、父親がワンタン麺を3つ頼んだ。(わんたん麺!?)たしかにエースコックのワンタンメンは知っていたので、だいたいの感じは分かったが、実際の(本物)はどういうものか、想像がつかない。

注文を受けた店主はまるでやる気がなさそうに、その四角い厨房に重苦しそうに入った。手打ちそば屋でパフォーマンス用にそば打ちを見せている所があるが、ここは外の3方向からも客席からも、すべて見通せる全開放型オープンキッチンである。店主はどんよりした仕種で、腰のあたりをパンと叩くと、自分の身のまわりを手早く整えた。薄い皮を手に取っている。白い粉が舞う。と思うと、変てこな平べったい小さな餃子みたいな物を作りはじめた。いくつもいくつも同じようなひねり方で作っていた。

えらく手間取っているのが、子供の目にもはっきりと分かった。何枚か開け放した窓だが、内側が密度濃く曇っていた。湯気の流れがあちこち巻いている。

しかし子供だった私は、また別の目でその様子を見ていた。あのガラスに囲まれたスペースに入ってみたらどんなに面白いだろうと空想した。あの中で四苦八苦しながら仕事をしている彼の姿を、本気でカッコいいと思った。

ふだんの2倍か3倍、時間がかかったように感じた。目の前にきたワンタン麺は想像以上に輝いていた。それはいつも見慣れているラーメンとは異別格の、品格ある具をたっぷりたたえた王朝麺だった。

何より透過率のよい醤油スープ湖に浮かぶワンタンがすばらしかった。ひだひだが均一で緩みがない。若干透けた皮の向こうに、ニラの生きのいい緑の斑点がのぞいている。あんの肉色がふわふわに透けている。うまさを誘発する半透過性。レンゲを使って一口で頬張る。見事にぷるんとはね返してくる。あんの肉汁がほどけて飛びだしスープと一緒くたになる。そして一瞬のうちにつるんと喉の奥に収まってしまう。餃子でも焼売でも味わえない、ねぎの香りが効いた小片。リズムが心地良い。食感がなめらかそのものだ。

おいしかった。世の中にこんなにおいしいものがあるなんて。信じられないくらいだった。

しかし初めて製作現場をみた私には(ワンタン麺はそうとう手間のかかるものだ)という激しい「刷り込み」が行われたようだ。このメニューを出している店を尊敬してしまう。なにか悪い気がして、おいそれとは注文できない。

私もあのときの父以上の年齢になり、ときどき突拍子もない店で意外で変てこなメニューを頼んだりする。でもそれが、子供の記憶の枝の先に引っかかり、案外いい思い出になったりしないかと、密かに期待したりしている。





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Last updated  2006.08.20 14:53:15
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