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ざらついた舌で 何度も何度も舐め取られるような嫌な感覚
昴
(すばる)の胸騒ぎが強くなる
那留 の身を案じ 逸る(はやる)気持ちを抑えても 沸き上がる悪寒は収まりそうも無い
それに呼応するかのように 死鈴蟲 の羽ばたきが勢いを増し
回廊の分岐点を右へ飛行するのを見届け 一気に距離を詰めようとした瞬間であった
何度も何度も聞いた 聞き覚えのある音が 昴
の耳朶に届いた
それは 自らの意思を失った生物が
自重を支えきる事が出来ず地面へと崩れ去る音である
昴 は一息に回廊を曲がる!
眼前に広がる光景
黒褐色に染め上がった 忍・天 の装束と 折り重なるように倒れこんでいる男の姿
両者とも既に事切れているだろう・・・
さらに 濃緑色のローブを羽織る得体の知れぬ者
瞬時に その情報を理解した昴は 飛燕を思わせる速さで その男の下へ疾った!
あれほど気がかりだった那留には一瞥さえくれず
背後に背負った 朧火 (おぼろび)の柄に手を伸ばすのと ほぼ同時に
独特の呼吸法から生じる硬質の気が昴の周囲を覆い
その気の高まりは 空気を激しく振動させ 耳をつんざくほどの高音を帯びた!
「じゃっっ!!!!!!!」
凄まじい疾走から繰り出される 加速のついた袈裟懸けの一閃
朧火は 蒼色の痕跡だけ残し クライス
の肩口へと吸い込まれた!
キィィィィィーーーーーーーンッ!!!!
「この糞餓鬼! 見境無しか!!!」
何者かの接近を 事前に察知していた クライス
であったが
何かしらの問答を想定していた為 昴の突然の攻撃は 完全に虚をつかれ
バルナグで初太刀(しょだち)こそ受け止めたものの
朧火の切っ先は バルナグ の刀牙に半ばまで食い込み
衝撃をもろに受けた左腕は 強烈な痺れが そこかしこに走り
当分の間 使い物にならないだろう・・・
「ぐぅぅっ・・・ 儂(わし)も いかれておるが・・・
貴様も相当なものじゃて・・・」
蒼炎を帯びた刀身の向こうで 身も凍る程の殺気を放つ男の眼(まなこ)は
死魚のように灰色に染まっていた
鏖殺
鬼哭一族の数多(あまた)の不文律の中で
自らの命に代えても死守しなければならない掟の一つが
鏖殺(おうさつ)と呼ばれていた・・・
不敗を常とし 隣国にまで その勇猛を轟かせるには
決して自国の剣士が 地を這い蹲る(はいつくばる)事などあってはならない
一度でも敗北を喫し 辛酸を舐めたならば
鬼哭の名は地に落ち その風説の流布は 遥か遠方まで達してしまう為である
万に一つ 敗北を喫した場合 どのような理由 女 赤子であろうとも
その場に居合わす全ての者を即座に惨殺する
すなわち 鏖(みなごろし)である
・・・
この鏖殺こそが 鬼哭一族の不敗の名を不変にし
強いては 他国からの侵略を防ぐ防壁に繋がるのである・・・
鬼哭に生まれた男児は 幼少より
この鉄の掟を叩き込まれ 疑う事無く成長を遂げる
昴が ことの顛末を一切問わず
クライスに切り掛かったのは至極当然の結果であった
「問答無用という訳じゃな・・・!
年甲斐も無く 我の血が滾(たぎ)るわ!!!!」
「死ねっ!!!!!」
クライスは 朧火を受け止めたまま 残った右腕を無造作に昴へ振り
その反動で 右腕に巻きついていた アミュレット
らしき物が外れ 鞭のように巻きついた
意に介さない攻撃と 多寡をくくった 昴 だったが
全身を凄まじい衝撃が貫き 体のいたる所から 青白い稲妻が無数にあがった!
「ががががっがが・・・・・っ!!!!!」
激しい痙攣を帯びながら 弾け飛ぶように後方へと倒れこむ
「くくくっ・・・ 初めて経験する 舞雷竜の味はどうじゃ?」
下卑た笑い声をあげる クライスの相貌は
耳元まで唇が裂け 神話に語られる悪魔そのものである
昴の心臓の鼓動が 静かに終わりを告げた・・・
続く・・・・・・・・
後記・・・・
この小説を書き始めた時は もちろんドス時代だったので
作中に出てくる飛竜は ドスに出てきた物だけだったんすけど
あれから月日も経ち 様々な飛竜も登場してやす!
今回 ちこっとだけ ベルキュロスを出してみやした!
まぁ 武器としてちこっとだけの出演なんすけどね!
※アミュレットとは 腕に巻きつけた紐状のものっす
※鏖殺というのは 当て字で 鏖←これだけで 「みなごろし」と読みやす
現代語は 皆殺し って書くっすね
これは 中国の言葉で 遥か昔 お金になるので
一帯の鹿を全て殺しまくった故事から来てやすが
鹿っつうと テトのケルビ大虐殺事件 を つい思い出してしまう親父でしたww
はてさて 主人公 死んじまいやしたww
次号 請うご期待!!!