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犬神佐兵衛の遺言は、野々宮珠世が佐清、佐武、佐智の3人のうち誰かと結婚し、その2人に全事業の権利と全財産を譲るというもので、珠世がこの3人と結婚しないときや3人が死んだ時にはその分与分の財産は最終的に青沼静馬に渡ることになっている。
簡単にまとめると、
「犬神家の全財産、ならびに全事業の相続権を意味する三種の家宝「斧、琴、菊」は次の条件のもとに野々宮珠世に譲る。
野々宮珠世はその配偶者を犬神佐兵衛の三人の孫、佐清、佐武、佐智の中から選ぶこと。 その選択は野々宮珠世の自由であるも、もし珠世が肯んじず、他に配偶者を選ぶ場合は、珠世は斧、琴、菊の相続権を喪失する。
野々宮珠世が相続権を失うか、死亡した場合は、犬神家の全事業は佐清が相続し、佐武と佐智は佐清の事業経営を補佐するものとする。 犬神家の全財産は公平に五等分され、五分の一ずつを佐清、佐武、佐智に与え、残りの五分の二を青沼菊乃の一子青沼静馬に与えるものとする。
佐清が死亡した場合、犬神家の全事業は共同者の佐武、佐智に譲られ協力して事業を守り育てること。ただし佐清の受くべき遺産の分与額は青沼静馬にいくものとする。
佐武、佐智が死亡した場合は、その遺産分与額は同様に青沼静馬にいくものとする。 三人のうち何人が死亡してもその分与額は必ず青沼静馬にいくものとする。
佐清、佐武、佐智の三人とも死亡した場合は犬神家の全事業、全財産はすべて青沼静馬のものとなり、斧、琴、菊の三種の家宝は彼のものとする」
本文中にも、「翁(犬神佐兵衛)は松子、竹子、梅子の三人のあいだに血で血を洗うような葛藤の、起こることをのぞんでわざとあのような奇怪な遺言状をつくったのではなかろうか」とありますが、この遺言状が発表された時から、犬神家の一族に血の惨劇が起こってゆきます。
本来ならば相続人は松子、竹子、梅子と青沼静馬の4人ですが、松子竹子梅子はこの遺言状では完全に無視されています。現在の民法では遺留分の請求などできるようであり、この物語が昭和2×年を背景にしているからこそ通用するのでしょう(雑誌「キング」に連載されたのは昭和25年~26年)。 法律的に佐兵衛の遺言状が有効かはおいといて、この「犬神家の一族」は横溝正史さんの代表作であり、もっとも知名度の高い作品だけあって面白いミステリ小説です。
写真は角川文庫の旧版「犬神家の一族」で表紙は杉本一文さんのイラストです。 現在、この杉本一文さんのイラストが見られなくなったのはちょっと寂しいですね。
日本のミステリ小説界において金田一耕助は名探偵の代表格です。
しかし日本ミステリ小説上、あるいは世界の探偵推理小説に登場する名探偵の中でも、殺人を事前に防げないという不名誉を与えられた探偵でもあるようです。
最後にはきっちりと事件の真相と謎解きをしてくれますが、そこへいくまでに何人も何人も殺される。この景気良く連続殺人を許してしまう探偵というのが、横溝正史さんの金田一耕助シリーズの面白さでありましょう。
横溝正史さんのミステリ小説は、地方の因習や血縁関係の因縁など、人間が生み出す愛憎のドラマであり、その事件に関係する人物たちを細密に描写する事に主眼が置かれていて、それが物語に深みを与えています。
金田一耕助は主人公ではなく、事件の傍観者でしかない。
もしもその金田一耕助が、登場人物たちの愛憎劇の中にしゃしゃり出て当事者の犯罪計画を妨害?(阻止)したとしたら、そんなものを誰が好んで読むものか。気前よく展開される連続殺人事件こそ横溝正史さん作品の醍醐味なんだから。
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