読書の部屋からこんにちは!

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2010.10.07
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カテゴリ: 小説
小川洋子の小説を、ほのぼのあったか系と不思議静謐系に分けるとしたら、この本はとびきりの不思議不思議静謐系です。

そして、その不思議さがとっても快感です。
できることなら、私もその不思議の中に入り込んで、いつまでも浸っていたいです。

題名は日記ですが、短編小説やもっと短い短編小説やいろんな形のエッセイみたいなものが並んでいます。
日記を書いているのは、小川洋子さんを彷彿とさせる女性作家で、この作家が講師を勤めている「あらすじ教室」の話は、とてもすばらしい。「あらすじ」という、本体の小説よりはるか下に位置されがちなものが、こんなに魅力に溢れているなんて・・・胸の底が痛くなるくらい、私もあらすじに魅了されたいと思いました。

そして、中でもいちばん好きなのは、現代アートの祭典を見学するツアーの話です。
ツアーって、旅行の中でも一番つまらない旅行の代表みたいに言われることの多い、ちっとも詩的じゃないもの。それが、こんな話になるなんて!
見学の先々で参加者が消えていくなど、ツアーといういたって散文的なものにも不思議さがあるという、その不思議さ。


小川洋子さんの文章の魅力は、なんといっても比喩の豊かさだと思います。さらさらと読み進むのがもったいないくらい、深い感覚が満ち溢れていて、何度も繰り返し読んだところもいくつかありました。
たとえばね、赤ちゃんのおしめを替えるところは、こうです。
「一度でいいから自分も赤ん坊のおしめを替えてみたい、と私は思う。この世で最も貴い生命の証に立ち会いたい、生れ落ちたありのままからまだ何ものをも失っていない、そのお尻を慈しむ営みに加わりたい、と願う。」
「当然赤ん坊たちはもっと無邪気だ。硬すぎる台に後頭部を押し当てながら、おしゃぶりを吸ったり指をしゃぶったりしている。両足でピコピコ宙を蹴るさまは自由で力強く、放っておいたら空にまで飛び出してゆきそうに見える。自分の下半身で何が起こっているのか、気にもしない。」

私にとっては最高におもしろい本でしたが、これから小川洋子さんを初めて読んでみたいんだけど、何がいいかなあと探していらっしゃる方には、ちょっとオススメできませんね。
その理由は、小川洋子ファンなら、わかりますよね。
そういう方はまず、「ミーナの行進」あたりからお始めくださいね。








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Last updated  2010.10.07 09:01:52
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