或る日の“ことのは”2

或る日の“ことのは”2

2015.07.22
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二年ぶり、位になる昔の職場の人から唐突に連絡があり、

『介護は順番だねー、遂に来たよ。 ・・・ぺぺるさんを思い出した』

と言われるので、

『よければ、息抜きにお茶でもしませんか?』

と、お誘いしたところ、二つ返事で快諾された。

お茶でなく、ランチにして、予定を合わせて落ち合い、

二時間ほど、ノンストップで近況など話し合った。

「ラストオーダーです」と、ウェイターが声を掛けてきた。

それを切欠のように、



「ぺぺるさんには今、癒しってある?」と。

相手の思惑が図れず、困惑して、特にないと応えると、

「じゃあ、私があげる」と、やおらエステの紹介を始められた。

それから閉店間際まで、i-phoneで動画やら、パンフやらを色々見せられ、

無料のお試しとやらの予約を入れるよう、散々勧められたのだが、

脳内の警戒警報が鳴り止まず、私は辛うじて返事を保留にした。






別れた後、自分が何処をどう歩いているのかよく判らなかった。

何故ほっつき歩いているのかもよく判らなかったが、

座ると泣き出しそうな気がした。





結局、

介護の話は嘘ではないにしろ、釣りの餌だった。



辿りついた。



私は彼女が大好きだった。

職場でトラブルが起きておろおろする私の手を、握り締めてくれた時もあった。

彼女の聞かせてくれる、他愛ない話が大好きだった。

彼女の生み出すアートが大好きだった。






決して彼女は私を悩まそうとした訳ではないのだろう、

自分で言うように、自分の良いと思うものを、是非にと教えたかっただけだろう、

それがエステで、美顔器だったというだけだ、

なのに、この気分の落ち込みようは何だろう。

どうして涙が出てくるんだろう。





必要か否かは置いておいて、私はエステに興味が無かった、

高価な美顔器にも興味は無かった、

なのに「興味が無い」と言い切れなかった。

彼女との縁を、無意識の内に守りたかったのだろう。


「行きたければ行くといいよ、無料というんだし?」

ある友人は言った。

「但し、絶対断る事が出来ないと思うなら、一度でも行くべきじゃないよ?

サロンに着けば、鞄は預かると言ってロッカーに入れられ、

帰りたくても、左右を固められて執拗に勧誘されるんだよ?

特にぺぺるちゃんの場合は元職場の先輩でしょう? 断りにくい事は間違いないよね」


・・・強制しないと言ってるよ?

・・・断りたいなら、絶対に私が守るからって言ってるよ?

「どちら側の人間なのか、まずよく考えるべきだよ。」

手元に残されたパンフからネット検索し、エステ会社の世間の評価を読んだ私は、心が折れた。




「ネットとかでは色々言われてるけど、私が悪いものを勧めるはずがないでしょ?」

「絶対ぺぺるさんの役に立つから!」

どこまでも明るい彼女の声が耳に残っている。


彼女の善意は疑わないが、彼女の善意には乗ることは出来ない。





「忘れろ。

君の好きだった先輩はもういない」




友人にそう言われ、

私は再び泣いた。














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最終更新日  2015.07.23 00:10:50
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