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Aug 2, 2005
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ずいぶん前になりますが、健康な心臓のエコーのデータを集めるために、トリミングに来る健康な子達を対象にエコー検査させてもらった事があります。
その時、検査前の聴診では心臓の雑音を認められない子でも、実際にエコー検査をしてみると心臓の弁膜の変性が起こっているケースが、時々見られました。
中には、シャンプーに来た猫で肥大型心筋症という心臓の病気が見つかって、急遽シャンプーを取りやめて治療プログラムを開始した事もあります。

心臓の雑音は、弁膜がきちんと閉じられていなかったりして、どこかで血液が正常ではない方向へ漏れている事を示しますが、歳をとってからの心雑音は弁膜が変性してきちんと閉じなくなる事で起こります。
ところが、変性は起こっているものの弁と弁の隙間がなく、心臓の機能としては正常なケースが、特に6-8才頃の子に時々見られます。
(中には奇跡的に、としか言いようのないほど弁の変形が進んでいながら血液の逆流がない子もいます)
雑音がない=逆流がないわけですから、まだ心臓に対する負担はないか、あっても治療の必要なしと判断されるほど軽微なものが多く、言ってみれば潜在的な心臓病という状況です。
ところが、こういう子がひどく興奮したり、麻酔などなんらかの重大なストレスにさらされた時、この奇跡的なタイミングで隙間なく閉じられていた弁の動きが乱れて血液の逆流が生じて、潜在的な心臓病が表に現れてしまう事があります。
程度が酷い場合は急性心不全に陥る事もあります。


老齢のペットに対する麻酔で、心不全と併せて注意しなければいけないのが腎臓の機能低下です。
ここでのお話は、生憎と犬や猫でのデータを持ち合わせておらず、人間でのお話になりますが、腎臓の構造上同じ理屈だと思います。
まず、腎臓は加齢と共に腎臓そのものの重量が軽くなっていきます。
これは、腎臓の内容で加齢と共に失われていく部分がある事を示しています。
血液をろ過する装置である糸球体という器官も、糸球体に流れこむ細動脈という血管が狭くなったりふさがったりするために働かなくなって徐々に失われていき、糸球体の数の減少に伴って尿を濃縮したり薄めたり、老廃物を排出する能力が低下します。
しかし、年齢に伴う変化が生じても、体の要求に答えられるだけの腎機能は保たれるので、年齢とともに生じる変化は、それ自体が直接病気を引き起こすものではありません。
しかしこうした変化によって、腎臓の予備力は確実に低下します。
イメージとしては、若い時に10個の糸球体があったとして、それぞれが10%ずつ働けば全体として100%機能していたところを、加齢と共に糸球体の数が10個から5個、2個と減っていくに従って、それぞれが20%、50%分働かなくてはいけなくなるため、機能的に余裕がなくなると思っていただければ良いと思います。

また、麻酔時には心臓の拍動は緩やかになって、血圧も下がる事が多いです。
血圧低下作用の少ない麻酔薬もありますが、一般に麻酔時には程度の差はあっても血圧の低下が起こると思って良いでしょう。
さらにそれが外科手術の場合は、出血のために当然低血圧になります。

まだ腎臓に予備力があれば、現役の糸球体ががんばる事で腎機能を維持できるのですが、この予備力が不足している場合は、失われた機能を補うことができずに腎機能低下症ー腎不全という、病的な状態になってしまいます。
通常、麻酔の前後の的確な検査・処置と術中のモニターと輸液での血圧維持でこの事態は避けられますが、老齢の場合は残念ながら必ずしも100%とは言えません。
これは、他にも原因は考えられますがその子の臓器の予備力の低下も一因になっています。


経験上、雌犬で特に一度も子供を産んだ事がない老犬に多い病気に子宮蓄膿症があります。
(産んだことがあるから大丈夫、と言う事ではありません)

しかし、多くの発症時期が老齢になってからである事から、これまでにお話したような麻酔の様々なストレスとさらには病気のストレスまでが加わって、実際には非常にリスクの高い手術になります。
ですが、病気の経過が早く、発見からせいぜい3日程度の時間的余裕しかないために手術を強行するしかないので、説明を受けた飼い主さんの多くが大変な苦悩を強いられます。

人や他の動物に比べて犬での子宮蓄膿症の発症率が高いことから、老後に麻酔をかけなければいけなくなるような事態を避けるリスク回避の意味で、特に子供を産ませる予定がない子には若いうちに避妊手術を勧めますが、きちんとした知識とイザという時の覚悟をもって、その子の生涯を通して飼い主さんに悔いのない飼い方をしてもらえるなら、無理に勧める事はありません。
言うまでもなく、麻酔に対する十分な体制の整っていない病院での手術は、年齢を問わず論外だと思います。


今回お話した「まだ病気ではない状態」は、麻酔に限らずどんな事がきっかけでそのバランスが破綻して病的状態になるかわからない部分があります。
獣医療では一般に、何か異常がない限りエコーやレントゲンなど専門的な検査は行われていませんが、人間ドックのように、ある程度の年齢になったらより精密な検査を受ける機会があっても良いのではないかと思い、ペット用のドックのシステムというか、カリキュラムが組めないものかと考えています。





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Last updated  Aug 2, 2005 07:11:18 PM
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