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2018年07月22日
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カテゴリ: 音楽
F.M. サルデッリによる歴史小説L’affare Vivaldiがこの3月に表題の書物として邦訳出版され、巷でその噂を耳にしていましたが、10日ほど前に連れ合いが東京の書店で見つけて購入。持ち主が読了したところで亭主も早速手に取ってみることに。



邦題がよく示しているように、本書はヴィヴァルディ本人ではなく、現在トリノ国立図書館に「 フォア=ジョルダーノ・コレクション 」として所蔵されている大量の自筆譜(全27巻、約450作品からなる)が主役の物語です。手稿譜という場合、一般的には本人以外の人物による筆写譜も含まれますが、ヴィヴァルディの場合には、幸運にも本人が生前から整理していた自筆譜が残っているということのようで、それらが2つの世紀を跨いで奇跡的に現代まで伝わった経緯の詳細を、音楽学者でもあるサルデッリがその博捜で明らかにするとともに、それをミステリー仕立ての小説の形式を借りて世に問うたものです。

ここで、レコードレーベルの「naïve」によるヴィヴァルディ・エディションにつけられた解説を引用してみましょう。

 しかし1926年、学校の聖職者は、建物を修理するための資金を得るために手稿譜を売却することを決定、まずトリノ国立図書館にコンタクトをとりますが、断られてしまったため、聖職者は、友人で裕福な銀行家だったロベルト・フォに打診、彼は、息子を追悼する記念図書館のためにこの手稿譜を購入します。 残りの半分は、まだ、ジェノヴァにありましたが、長い交渉の末、ドゥラッツォ一族の相続者が売却に同意したので、二つに分かれていた手稿譜は、再び一つにまとめられることになります。なお、この時(1930年)、資金を提供したのは羊毛商のフィリッポ・ジョルダーノという人物でした。その後、アントニオ・ヴィヴァルディの手稿譜専門図書室が、トリノ国立図書館内にその本拠を移しますが、そこは現在、「マウラ・フォ=レンツォ・ジョルディーナ・コレクション」という名称で知られています。


とはいえ、naïveの解説記事で「サレジオ会がトリノ国立図書館にコンタクトを取ったが断られた」云々以降の部分では、大きく抜け落ちている詳細があります。それこそは本書の主要な登場人物である当時の図書館長ルイージ・トッリや、その友人でユダヤ系の音楽学者アルベルト・ジェンティーリが手稿を散逸から守るべく果たした大きな役割についての伝記であり、読んでいて最も面白い部分の一つと言えます。もちろん、彼ら以外にも数多くの実在した人物(例えば美術好きの読者は、パーティーの席で著名な美術史家リオネッロ・ヴェントゥーリに会うことができます)が登場し、彼らがサルデッリの筆によって眼前に生きいきと立ち現れる様は壮観です。「神は細部に宿る」の言葉にもあるように、例えば登場人物らの食事、特に出される料理についての微に入り細を穿った記述には思わずヨダレが出そうで、このような細部こそが小説を読む醍醐味だと再認識させられました。

ところで、亭主が手稿譜の来歴とは別に大いに興味覚えたのは、ムッソリーニ率いるファシスト党が独裁を強めていく第2次大戦前のイタリアの様子でした。ファシズムといえば、特に日本ではヒトラーのドイツのみが大きく取り上げられることが多く、イタリアやスペインで何が起きていたかが語られる機会はほとんどありません。(亭主は本書を読みながら、同じイタリアの作家、プリーモ・レーヴィの小説「周期律」を思い出していました。)



本書を読むと、ドイツでワーグナーがそうであったように、イタリアではヴィヴァルディが政治利用され、そこではムッソリーニの信奉者でヴィヴァルディの音楽の愛好者でもあったエズラ・パウンドが、詩人としての名声を笠に着て色々と暗躍する様子が生々しく描かれています。

それにしてもこの歴史小説、その章立てや構成を改めて眺めると(ネット上で誰かがいみじくも指摘しているように)まるで映画のシナリオのようです。登場人物も、コメディア・デッラルテのストックキャラクターのような既視感があり、そのまま映画になってしまいそうな印象を受けました。何れにせよ本書、古楽好きには必読の一冊です。






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最終更新日  2025年10月02日 08時05分14秒
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