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2018年07月29日
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カテゴリ: 音楽


スタンリー・キューブリックといえば、何と言っても「2001年宇宙の旅」(1968年)がいわば出世作としてあまりに有名ですが、本作はそれから7年、これも有名な「時計仕掛けのオレンジ」(1971年)に次いで製作されたものです(1975年公開)。当時は興行的にあまり振るわなかったようですが、今や彼の代表作の1つと目されています。



亭主が思うに、この映画を楽しめるかどうかは、18世紀という時代にどの程度リアルな関心を持てるか(それも「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「アマデウス」といった娯楽性を抜きで)に掛かっているな、と感じます。

原作は19世紀ヴィクトリア朝時代に英国で活躍した作家ウィリアム・サッカレー。同時代のチャールス・ディケンズが市井の貧しい庶民の世界を共感的に描いたのと対照的に、サッカレーは中・上流階級の俗物性を痛烈に皮肉る作風で知られていたようです。

映画の古典として有名な作品でもあり、ネタバラシをすると、本作の主人公バリーは18世紀半ばに生まれたアイルランド農民の子という設定です。彼が、従姉との恋愛沙汰をきっかけに、様々な事件や「7年戦争」(1754-1763年)に巻き込まれながら英国、プロイセンと有為転変の人生を送るうちに、イカサマ賭博の客として知り合った英国貴族リンドン卿の妻を籠絡、寡婦となった彼女と結婚して貴族の仲間入りを果たす、というのが話の前半で、その後彼にいろいろな災難が降りかかり、結局封建領主の権利を得ることもできず、借金まみれで最後には英国を追い出されて元の木阿弥に戻る、というのが後半の内容です。

18世紀はいわゆる封建制社会。貴族である封建領主=土地所有者は、領地から上がる収入で(働かずとも)優雅な生活を送れる身分でした。例えば英国でgentlemanとは「働かなくても収入がある人」、「ladyとはgentlemanの妻」と定義されることを、大昔に玉村豊男氏の本で読んだ覚えがあります。(亭主がまだ若かった頃、しばしば英国人と話をすることがありましたが、ある日このgentlemanの定義を話したところ、「そういうバカな定義は他にも色々ある」などと一笑に付されたことを思い出します。)そういう階級の人間にとっての主要な関心は結婚と相続で、それによっていかに安楽な特権を維持するか、ということになります。

実際、この作品中で徹底して描かれているのは、上流階級が資産・お金に固執する話で、「成り上がり」である主人公も全く同じ。通常「俗物根性」とは身分の賎しいものが貴族の真似をする意ですが、真似の対象になっている貴族社会の拝金主義まで真似るところが痛烈な皮肉としてよく効いています。

ところで、映画のストーリーが上記のように陰鬱であることと好対照なのが、キューブリックの映し出す映像の美しさで、テーマとの対比・落差は全く目がくらむようです。とにかく長いショットが多く、そのいずれもが動く18世紀絵画と言ってもいい豪華絢爛さ。夜の部屋の場面では照明を使わずにローソクの明かりだけで撮影し、そのためにアポロ計画で使われる予定だった特別に明るいレンズを探し出して使うなど、凝り性のキューブリックがありとあらゆる細部にこだわって18世紀の(表面的には)優美な世界を我々の眼前に再現してくれる様は圧巻です(次はBlueRayで見たいもの)。

映画の中では、当時音楽がどのように享受されていたかを再現したシーンも2箇所ほどあります。いずれもリンドン夫人がハープシコードを演奏していますが、これらのシーンも何処かの美術館(あるいはCDのジャケット?)で見た、という既視感ありあり。


それにしても、18世紀以前の音楽が、かくのごとく道徳的腐敗と拝金主義にまみれたアンシャンレジームに奉仕していたのだと知ると、なんともやるせない気持ちになります。







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最終更新日  2026年04月15日 08時32分24秒
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