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2022年10月16日
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カテゴリ: 音楽


その後、この「音楽の父」という尊称の由来が気になり、少々ネット上で調べ物をしていたところ、ウィキペディアの彼の項目中に「 日本の音楽教育では『音楽の父』と称された 」という記載があるのに遭遇。

つまり、「音楽の父」は日本だけで通用するローカルな尊称というわけです。実際、バッハが活躍したドイツ本国でもそのような呼び方はしないようで、これには亭主も驚きました。

さらに、文中で「音楽教育では」とわざわざ断ってあるように、どうやらこれは東京芸大を頂点とする音大での教育において使われていた尊称らしい、というわけです。

これが事実とすると、クラシック音楽の歴史の「起点」をバッハと捉える(聖書的な)音楽史観は、ドイツ・ロマン派音楽をレパートリーの中心と据えた日本の音楽教育界に特有の歴史観であるとも推測できます。(この歴史観、音楽教育のメニューからバロック以前の音楽を圧縮・省略するための口実に使われたのかも?)

ウィキの記載には、記事の根拠として「教養としてのバッハ - 生涯・時代・音楽を学ぶ14講」という複数の著者によるムック本 の中の第1講「バッハの生涯 - バッハ研究をめぐる諸問題」(礒山雅担当)が引用されています。残念ながら亭主はこれを読んだことがなく、磯山さんがそこで何を書いているのかはわかりませんが、本が出版されたのは2012年と比較的最近で、「音楽の父」という尊称自体の起源はもっと前に遡ることができると思われます。

そこで、例によってグーグル先生に訊いてみたものの、これといってめぼしい情報は出て来ず。何か手がかりはないかと亭主の本棚を漁っていたところ、全音出版の「インベンション」の楽譜の冒頭にある無署名の解説記事「この曲集について」の中に、以下のような記述を見つけました。
(前略)第一に考えなければならないのは、バッハの音楽というものが、ベートーベンやショパンの音楽とどう違うかということ、いいかえれば、バッハが「音楽の父」といわれるのはなぜなのか。このこと—すなわちわれわれがバッハから何をくみとらなければならないかということ—は諸君がこれから自身で体に蓄積していくべきことであり、音楽に接して初めて体得すべきことであるから、一応ここでは除外し、技術的な問題を考えてみよう。…
奥付をみると、この楽譜が出版されたのは1955年(昭和30年)ですので、この頃には(少なくとも音楽教材のような出版物の中では)例の尊称が普通に使われていたことが窺えます。(多分もう一世代前ぐらいまでは遡れるであろうことは容易に推測されます。)

ちなみに、ほぼ同じ頃に出版された岩波小辞典「音楽」(山根銀二編、1955)の「バッハ」の項を眺めてみたところ、そこに「音楽の父」の記述はなし。ただし、ヒントになりそうな記述として、ベートーヴェンがバッハを「和声の父」と呼んでいたことが紹介されています。

これは、和声あるいは和音の起源が、多声音楽における声部の「結節点(複数の音が重なって同時に鳴るポイント)」にあるという考え方に由来するもので、バッハが多声音楽、なかでもフーガの作曲を得意としていたからだと思われます。

が、少しバロック音楽をガジればわかるように、和音は(調性とともに)バッハよりだいぶ前の時代から既に音楽家の間で強く意識されており、それを明確に論じたのがラモーの「和声論」(1722年)というわけなので、バッハが「和声の父」とは贔屓の引き倒し(ベートーヴェンは単にそのようなことを知らなかっただけ?)に見えます。

そこで一つの可能性として亭主が思いついたのは、日本の音楽教育においてこの「和声の父」という呼称が転用されて「音楽の父」という尊称になったという仮説。(ウソくさいでしょうか?)

いずれにしてもこの尊称、日本の音大出の音楽家がヨーロッパで「ファーザーオブミュージック」などと言っても「ん?誰それ?」となってしまいそうで、想像するだに吹き出しそうです。

(そういえば、芸大の「島岡和声」も同じように日本独自の和声教科書という話をどこかで聞いたような…)









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最終更新日  2022年10月16日 18時04分37秒
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